[後編]近視が増えた理由や予防方法などについて、医療法人社団久視会いわみ眼科理事長 岩見先生に伺いました!

近年、子どもの近視が増えているって知っていましたか?
今回は、近視が増えた理由や予防方法などについて、医療法人社団久視会いわみ眼科理事長 岩見久司先生に前後編にわたってお話しいただきました。
今回は後編です。

生活習慣の改善について

前回は、近視を改善するには、生活習慣の改善が有効だというお話をしました。
では、生活習慣の改善について、どのようにすればよいのでしょうか。
まず、調節緊張についてです。昔は読書が代表的な過度の近業(近いところを見続ける作業)であり、本を読みすぎたせいで目が悪くなったからなどと言われていたものですが、現在は近視を進行させるようなリスクの有るものがたくさんあります。

タブレット学習、動画配信サイト、手持ちのゲーム機、スマートフォン、これらのものを使いすぎると容易に調節緊張の状態になります。
近視学会はアメリカ検眼協会が提唱している20-20-20ルールを推奨しています。
これは、20分作業をすれば、20秒でいいので、20フィート(約6m先)を眺めましょうというものです。
また、仕事でパソコンなどを使う場合の、日本の厚生労働省の規定ですが、タブレット学習など画面を見る行為は最長でも1時間として、10分から15分以上画面を見ない時間をつくりましょうとしています。

本もそうですが、スマートフォンや携帯ゲーム機など、手に持って見ることができるモノはhandheld deviceと呼ばれます。
手に持つと気づかないうちにその手がどんどん上がって距離が近くなりすぎます。
肘を伸ばして顔からの距離を確保するのも重要です。姿勢は曲がっていると当然近くで見ることになってしまいますが、背中を曲げないというのも大事です。

しかし、子どもたちには◯◯しない、などの否定的な指示はなかなか理解されません。
そこで、姿勢を良くするために肩甲骨を内側に寄せるようにしましょう。そうすると背筋の上の方が緊張し、背筋はまっすぐになります。
また、屋外活動をしないとピントが遠くに戻ることがなくなってきます。これも調節緊張を助長します。
さらに日光を浴びることも重要です。ですので、近業の休憩時間や休日などに可能であれば積極的に外出をしましょう。

医療面からのアプローチについて

これら生活習慣の改善を試みても進行する、あるいは生活習慣がなかなか直らないということもたくさんあります。
例えば中学受験をするお子さんの勉強(=近業)時間は非常に長いものになります。
次の一手は医療的なアプローチです。
調節緊張をとる点眼を寝る前にする方法があります。
世界的には低濃度アトロピンを用いており6)ますが、国内未承認のため多くの眼科で輸入対応をしています。
保険診療にはならないので自費診療として扱われています。
国内で承認されている調節緊張を緩和する薬剤としてはトロピカミドというものがありますが、近視治療として強力なエビデンスは報告されていません。
しかし、日中に調節緊張を強くするような生活習慣が過多になっているときは、点眼だけでは歯が立たないことが多いです。

軸外収差を改善するものとして、オルソケラトロジー7)と多焦点ソフトコンタクトレンズ8)があります。
オルソケラトロジーは夜に付けるハードコンタクトレンズです。
目の中央の角膜の上皮を圧迫することで遠くが見えるようにし、かつ圧迫された上皮が外側に移動することで軸外収差が改善し、近視が進行しにくくなるといわれています。
このメリットは日中には裸眼で遠くが見えるようになることと、夜つけて朝外すことから保護者が管理をしやすいことです。
強度の近視や乱視があると効果が出ないこともあるので注意が必要です。この治療も自費診療になります。
多焦点ソフトコンタクトレンズも、同じように軸外収差を改善させますが、日中つける必要があり、自己管理がある程度できる年齢でないと使うのが難しいという欠点があります。

日本人は近視になりやすいにも関わらず、一般の方々の近視進行への問題意識が非常に薄く、また、近視治療ツールの導入も遅れているのが現状です。
例えばオルソケラトロジーはヨーロッパでは保険適応が認可されていますが、日本ではまだまだ自費診療で行われており、使用されているお子さんもヨーロッパや他のアジアの先進国に比べて少ないです。
近視の進行は未成年の間に進行し、合併症は成人してかなり経ってから生じます。そのため、間が長すぎてイメージが湧きにくいということも関係があるかもしれません。
しかし、最初に述べましたように小児の近視は社会問題だと捉えています。まずは近視進行に対する意識を変え、子どもに関係する全ての人間が取り組む問題だと考えています。

6)Morgan IG et al. Prog Retin Eye Res 2018
7)Haaman AEG et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 2020
8)Smith EL et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 2005

【参考文献】
Diether S et al Vision Res 1997
Wu PC et al.Ophthalmology 2020
Chia A et al. Ophthalmology 2012
Hiraoka et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 2018
Cheng X et al Acta Ophthalmol 2020





執筆者

岩見久司先生
大阪市立大学医学部卒
医療法人社団久視会 いわみ眼科理事長
眼科専門医
医学博士
兵庫医科大学非常勤講師

経歴
1日100人を超す外来をこなしながら、若手医師の教育や医師・医療関係者向けの講演も頻繁に行っている。
加齢黄斑変性や糖尿病網膜症などを得意とする網膜内科医。
網膜の病気に将来繋がっていく可能性のある小児の近視が現在急増しており、近視治療にも積極的に取り組んでいる。
令和5年度より、「100歳まで見える目」をたくさんの方が持てるように啓蒙活動を展開中。

いわみ眼科ホームページ
https://iwami-eyeclinic.com

スポンサーリンク

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事