「子どもは風の子」って本当?由来や根拠はあるの?健康科学大学特任教授、健友堂クリニック院長菅原先生に伺いました!

子供は風の子という言葉を聞くけれど、本当?由来や根拠はあるの?今回はそんなお話を健康科学大学特任教授でもある健友堂クリニック院長 菅原健先生にお話しいただきました。

「子供は風の子」という言葉の歴史

「子供は風の子」という言葉は日本人ならば誰でもよく聞く言葉でしょう。つまり子供は冬の最中北風が吹いているような屋外で遊んでいても、寒さなんて平気でむしろ元気で走り回っているのだという様子を言い表したのが、「子供は風の子」という慣用言葉であります。

慣用というからにはこの言葉にはそれなりの歴史があるわけでありますが、それではこの「子供は風の子」という表現はいつ頃からいわれていた言葉であるかと申しますと、ここに「俚言集覧(りげんしゅうらん)」という江戸時代の「俗人がよく使う言葉」をまとめた俗語の国語辞典のような本がありますが、そこにはもう「子供は風の子」という言葉が書かれています。つまり「子供は風の子」というのは少なくとも江戸時代の寛政文政期以前から今迄ずっと使われてきたとても歴史のあることばということになります。

また一説に「子供は風の子」という言葉には続きがあって、それは「子供は風の子、大人は火の子」というのだそうでありまして、本当はこっちの方が正式な諺(ことわざ)で、その「大人は~」の部分を省略したものが今よく使われている「子供は風の子」であるという事がまことしやかにいわれております。ところが「大人は~」の下りは江戸期の俚言集覧には書かれておらず、私のいままで読んだ同時代の書物にも一度も登場したことはありません。

「大人は~」のくだりが登場するのは1910年(明治43年)の諺語大辞典に初めて登場しているそうですから、おそらくは後人のつくったそれこそシャレの利いた俗語であると思われます。諺(ことわざ)とは古くから言い慣らわされた言葉の事でありますので「大人は~」の下りはあまり気にしなくて良いでしょう。

江戸時代の子供の育て方

さて、俚言集覧の「子供は風の子」という項目に書かれている解説を早速見てみますと、「小児は風日にあはしむるがよろし、あまり愛するままに暖衣すべからず。暖衣なれば筋骨緩弱なり」と書かれてあります。この解説の出所については何も書かれていませんが、実はこの文章、近江や京都で活躍した江戸時代の医師である香月牛山(かづきぎゅうざん)が著した「小児養育草(そだてぐさ)」から抜萃した文章であります。「小児養育草」は「婦人寿草」と並んで香月牛山が一般庶民に向けて著した著書でありまして、江戸時代の前期から中期にかけて書かれたその時代のベストセラー本でした。

これはおそらく日本最古の育児書であります。またそれより少し後で活躍する貝原益軒(かいばらえきけん)や有持桂里(ありもちけいり)、その他愛育茶譚(あいいくさたん)を著した桑田立齋(くわた/くわだ りゅうさい)など後の世に大きな影響を与えた著書であります。

それらを見てみますと生後間もなくから幼児期にかけての育て方の事を「護養法」といいますが、その護養法においては衣食の二つが重要な事でありまして、そしてその護養法においては「三分寒七分飽」が大切であると書かれています。三分寒とは「あまりに暑くなる程に着込ませすぎない」こと、七分飽とは「腹が膨れ過ぎる程に飲食させすぎない」事であります。

それらを十を最大としたときの三割減にするのが子供を健康に育てるコツなのだそうです。
そしてその次に大切なことは、「度々(たびたび)風日を見せる」事だそうでして、そよ風が吹いて日が照っている時には外に出して遊ぶ、もしくは抱いて外に出る事が大切であります。そうすると「血気剛強肌膚緻密(血氣がかたまって皮膚が強くなる)」になります。皮膚の締まりが弱いと元気が漏れてしまい病気に対する抵抗力が弱くなります。反対に三分の寒で肌膚が締まれば滅多に病気にかからない体になるわけです。

この本には更に裕福な家にありがちな失敗というか可愛がりすぎの例も挙げられておりまして、外に出さずに厚着をさせるとひ弱な子供に育つという事も書かれてあります。こういう子供の健康法についても実に江戸時代のような古い時代からこのような事がいわれていたのです。面白いですね。
実際昔の子供達はどんなに寒くても、主に子供達だけで誘い合ってみんなで外で遊んでいたものですから、まさに「風の子」だったわけです。

現代の子供たち

今の世の中は子供だけで外で遊ぶのは危険な時代になりましたので、なかなか子供達も「風の子」の本領を発揮できずに育ってしまうのではないかと心配になります。
確かに幼児研究に関する論文にも、薄着による感冒罹患率の低下や、裸足教育による運動能力の向上などの報告が散見されておりますので、子供を丈夫に育てたければ「子供は風の子」の考えで育てるのは大変良い事だと思います。一部の保育園や幼稚園の一部では「裸足」や「薄着」を推奨しているところもあります。

また江戸の護養法でいわれていた薄着というのは、言い換えると「厚着をさせすぎない」ということでありますから、どんなに寒くても薄着であればあるほど、または少食であればあるほど子供は健康になるという意味で述べているわけではないので、薄着をし過ぎて風邪をこじらせたり好き嫌いが多すぎて何も食べずに栄養失調になったのでは本末転倒になってしまいます。
「子供は風の子」の諺語に対し「三分寒七分飽」という言葉は格言ではないかと思われます。

[出典]
荒木勉、井上義光ら、Japanese journal of school health 24 (7), p344-350, 1982-07
西澤 昭 はだし教育の効用について 生涯スポーツ学研究 vol.8 No.2 2012
菅原健、織部和宏 有持桂里方輿輗解説 たにぐち書店 2017
小児必用養育草 中村節子 農山漁村文化協会 2016
補増俚言集覧 井上頼圀ら 1900

執筆者

菅原 健
健友堂クリニック院長
健康科学大学特任教授・山梨大学医学部非常勤講師

山梨医科大学卒業してから同大学病院麻酔科に入局。
入局後手術麻酔・救急部・ペインクリニックなどを担当し、早くから漢方医学を取り入れた外来治療や教育に力を入れていた。
現在は甲府市に漢方専門の診療所/健友堂クリニックの院長を務め毎日の診療の傍ら、漢方医学を多くの人に知ってもらうため医学部や看護学部での講義や本の執筆も行う。
著書に「方輿輗解説」(たにぐち書店)「知られざる日本漢方の力」(幻冬舎)など。

健友堂クリニック
https://www.kenyudo-clinic.com

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