小児科医ママからのアドバイス。「不安が強い子ども」に親がしてあげられること

同じ事を経験しても、とても不安がる子とそうでない子がいます。
「育て方のせいですか?」とよく聞かれますが、
生まれ持った気質と、育て方や経験などの環境因によって、不安傾向は形作られていきます。
実は私の娘もとても不安が高い子です。
彼女はハイハイをしていた際に、布団の段差をとても慎重に降りる子で、
それを見たときに「やっぱり気質ってあるんだなぁ」と驚きました。
この頃から「不安傾向の高い子」であることを私も夫も意識して子育てしてきたものの、
今振り返ると、そんな彼女にはこれは厳しかったよね、という状況を作ってしまった事も多々あり、
わかっていても親として対応するのは難しいと、いつも感じています。




不安のレベルは、心配の程度と相関しているといわれています。
不安傾向の高い子どもは、そうでない子どもよりも心配事を沢山抱えており、心配の強さも強いのです。
成長に応じて心配の内容も変わってきますが、「心配事」は誰しも抱えるものです。
ただそれが行き過ぎると、エネルギーが失われて、本来その子が持っているはずの問題解決の力が発揮できなくなります。
そうなると、自分が無能だという感覚が強まり、危険を感じると不安に圧倒されてしまうようになり、それを避けるような行動が増えてきます。
「不安障害」と診断される子どもは、こういった状態に陥ってしまっている子です。

子どもの不安の特徴として、「行動抑制」「不安感受性」がみられます。

行動抑制とは、初めての場面に入ることを避けたり、おどおどしたり、他人にまとわりついたりすることです。
不安感受性は、心臓がドキドキしたり、身体が震えたり、頭が真っ白になったりといった形で不安感を感じると、
対人関係や自分自身に悪い事が起こるのではないか、と思い込む強さのことです。
不安感受性の高い子は、不安を1つの感情と捉えるのではなく、
不安を経験すること自体が恐ろしい結果につながると信じているところがあります。
不安障害に陥っていると、不安感受性が高まることで不安が別の不安を呼びやすくなり、
これまで当たり前に出来ていたことが突然できなくなってしまいます。

こうした不安と、どう向き合わせたらいいのですか、という質問を受けることがよくあります。

たとえば
「子どもが学校を怖がっているけど、引きずってでも連れてきて下さいと先生から言われます」
不登校の子を持つ親が悩みやすい問題です。

不安障害の治療として、認知行動療法というものがあります。
これは、恐怖の対象や状況を体験させることで、実際にはそこまで怖くないんだということを理解させ、その状況を受け入れる事で慣れさせるものです。
不安だけど、それをこらえて登校してみたら、お友達が迎えに来てくれて、そこまで怖い思いもせずに楽しく教室に行けた・・・
といった経験をした子がその後、登校できるようになると、その経験を踏まえて、学校の先生達も登校刺激を勧める事があります。
一見、認知行動療法に似ていますが、認知行動療法ではきちんと、
なぜ不安を感じるようになったかを理解するための心理教育を行いますし、
その治療者とのやり取りがとても重要です。
体験をする際には、恐怖を感じていない第三者を観察し、真似をしてから、実行する、
という方法も組み合わせて丁寧に行います。
つまり、こうした不安を起こす行動をとる際には、本人の意欲不安に向き合おうとする気持ちが大切です。
それなくして無理矢理体験させようとすると、失敗して怖い思いをしてしまった時に、
より恐怖が強化されてしまいます。
すると、ますます恐怖心が高まり、不安に立ち向かえなくなってしまいます。
泣き叫ぶ子を引きずりながら登校させ続けてトラウマ化してしまう事もあります。

だからまずは、本人が抱えている不安を周囲が理解し、不安を減らす関わりや環境調整を考える事が大切です。
そしてその時の親の対応として、2点気をつけなければいけないことがあります。
1つ目は、親が過保護になりすぎないこと
2つ目は、本人が怖がっている行動を取り組む事に対して親が無理させすぎないこと

過保護過ぎると余計に本人が不安を駆り立ててしまうこともあるし、
厳しすぎると「できなかったらどうしよう」という気持ちを高めてしまうこともあります。
両者のバランスを取りながら、その時の状況に応じた関わりをする事が大切です。
やりたくないなという気持ちが強いまま取り組ませると、恐怖体験になる事もあります。
あくまでも本人が楽しみだな、トライしてみたいな、という気持ちから、一歩を踏み出すことが大事。
一歩を踏み出すのは本人ですが、
ポジティブな気持ちを持てるような工夫、環境調整は、親がサポートできる部分です。
大きな不安にどうしたらいいかわからなくなっている子どもが、一人で気持ちを切り替えることはとても難しいですから、ここは親の出番かなと思います。

でも、その場面に立たされると、冷静に対処する事は難しいと思います。
私の娘も不安が高く、人前に出ると大泣きしやすい子なので、私自身、いつも対応に悩みます。
発表会の演技前に泣き出すので、引き取って観客席に連れてきてもグズリ続け、
思い切って先生に預けた後にはばっちり演技できたこともあります。
逆に舞台でずっと大泣きしたこともあります。
ある時は思い切って先生に預けてうまくいきましたが、
預けて逃げだされたこともあります。
娘の行事では、いつもハラハラしっぱなしで、毎回夫と反省会。
自分たちの対応や娘の状態を振り返って、何がよかったのか、何がまずかったのか、話し合っています。

親として、いつも完璧な対応が出来ているとは思いませんが、
娘に悪かったな、と思う対応はあとで本人に謝りつつ、
本人の成長した部分を一緒に振り返りながら、自分自身も成長していこうと思っています。




ちなみに子どもの場合は、お腹が空いた、眠たい、などの生理的な刺激に左右されやすいので、
こうした原因がないかどうかを確認しておくのも大切です。
そもそもの状態が悪いところにイベントが加わると、成功できるものもうまくいかなくなりがちです。
一方、自分自身が焦って娘を落ち着かせられないこともあり、
親自身が深呼吸をしたり、一旦気持ちを切り替えたりする重要性を感じています。

ちなみに、娘が舞台で大泣きした時に、あとで本人に話を聞くと
① 眠かった
② 目の前に沢山カメラがあってビックリした
③ 着たくない衣装だった

という理由があったそうでした。
②は想像しやすいけれど、①や③で演技中ずっと泣き続けている、
というのは、大人には理解しにくい話ですよね。
でも、外来で会う子どもたちの似たような話を聞いていると、珍しくもないなと思います。

子どもの不安の高さで悩まれている方は、まず、その不安な出来事の前後にどんな事があっているか振り返り、その子が自発的にトライしたくなるような動機を探すことから始めてみて下さい。
自分達の努力でどうしようもない時は、専門家に相談された方がいいでしょう。
第三者に話すだけで、親も子も気が楽になったり、不安と向き合いやすくなったりすることもありますよ。

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