緊張して何もできない・・・。失敗が怖いという子どもにかけたい言葉について、今回はご自身の体験も交えて、新見正則医院院長、新見正則先生にお伺いしました。
子どもの頃の悩みが、今に繋がる
僕は子どもの頃、吃音があって、そして発語障害もあって、いつも緊張していました。吃音のため人前で話すとか、電話での対応は本当に苦手でした。
いわゆるパニック障害に近い状態でした。
そして吃音の上に、読語障害もありました。
これは紙に書いてある字を音読できないのです。
眼を閉じて暗記していることを言葉にすることは可能でした。
また旋律に乗せて歌えば発語できました。
自分の頭の中が不思議で、そんな思いも医師を志した理由のひとつでした。
同じ悩みを持つ子こども達に、かけたい言葉
外科医として始まった医者人生ですが、オックスフォード大学博士課程で免疫学を学び、その後帰国して漢方にも興味をもって、幅広く患者さんを拝見できる見識と経験を積みました。
しかし、還暦を過ぎた今になっても自分の頭のなかは不思議で、理解できません。
2020年に、がんが難病・難症に対応するクリニックを飯田橋で開業してからは、パニック障害を感じている患者さんも多数拝見するようになりました。
当院は初診時から電話診療も行っているので、全国から患者さんが相談されます。
緊張感や、パニック障害や、吃音などの患者さんも多数拝見しますが、まったく同じ病態という人は実は少なく、それぞれに症状も対応も異なります。
ところが先日、久しぶりに僕の子どもの頃と同じ症状のお子さんが受診されました。そこで僕が投げかけた言葉です。
「言葉がうまく出てこないことがあると、生きているのが嫌になるだろう?」
「先生も子どもの頃はそうだったよ」
「うまく話せないことがバレないように一生懸命努力しているでしょう」
「隠そうとすればするほど、緊張感が増すでしょう」
「話せないことがバレても本当の友だちはいなくならないよ」
「いっそ、うまく話せないのだと公言して生きると楽になるよ」
そして、この子は吃音を公言するようになって、生き生きと生活するようになりました。そしてアマチュア無線で宇宙ステーションとも交信をしたそうです。
僕の幼少期もおなじで、吃音や発語障害を克服するためにいろいろなことをトライしました。
でもどれも無効でした。
克服と言うよりも周囲にバレたくなかったのです。
ただ、今から思えば、ちょっと話し始めると周囲は「吃音っぽい子だな」と直ぐにかんづいていたはずです。
でも一生懸命に隠したかったのです。
吃音がバレることが、もの凄いマイナスだと思い込んでいたのです。
結局、いろいろな努力をしても吃音は治らないので、最後は諦めました。
隠すのを諦めた後に、次第に吃音は出なくなりました。
人には個性があります。子どもにも個性があります。
長所も短所もあります。すべてを受け容れて生きるしかないのです。
人生は理不尽で、不平等で、不公平です。
まず今を受け容れて、堂々と公言して生きると楽になる症状はたくさんありますよ。
「緊張するのも個性だよ。自分らしく生きなさい」と言葉をかけながら、ちょっと距離感を持って、ある時は抱擁して、子育てを楽しむのがいいと思っています。
執筆者
新見正則先生
新見正則医院院長
経歴
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。
98年移植免疫学にて英国オックスフォード大学医学博士取得(Doctor of Philosophy)。
2002年より帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。
2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。
20代は外科医、30代は免疫学者、40代は漢方医として研鑽を積む。
現在は、世界初の抗がんエビデンスを獲得した生薬フアイアの啓蒙普及のために自由診療のクリニックでがん、難病・難症の治療を行っている。
最新刊『フローチャート整形外科漢方薬』はAmazonで3冠(臨床外科、整形外科、東洋医学)に輝きました。
また、今回の記事にも関連する、一人娘を育て上げた思いを書籍にした「しあわせの見つけ方 予測不能な時代を生きる愛しき娘に贈る書簡32通」(新興医学出版社)が近日発刊予定。
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新見正則医院ホームページ
https://niimimasanori.com/