昔は子どもに太陽光を浴びさせるように言われてきたけれど、最近の強い日差しでもそれって必要なの?
そんな疑問について、医学博士、循環器内科専門医である医療法人社団正恵会 ディオクリニック統括院長、藤井崇博先生にお伺いしました。
日焼けは子どもの体に悪いの?
まずは、単純に日焼けは子どもにとって有害なのかどうなのかというお話からさせていただきます。
子どもは昔から小麦色の健康なイメージがあると思います。その一方で、日光に含まれる紫外線が皮膚がんのリスクを高めることも分かってきています。
特に子どもは成人よりも皮膚が薄いので、紫外線に対するバリア機能が弱いです。
また、細胞分裂が活発なため紫外線の曝露によるDNAの損傷を受けやすいという懸念点があります。
また、人間が60歳までに浴びる総紫外線曝露量の40-50%は20歳までに浴びるとされています。
(出典元:上出良.散歩・日光浴. 小児科, 2017. 58(9):951-956.)
こうしたことから、子どもの紫外線防御は重要と考えられるようになってきており、以前は乳児期からの日光浴を積極的に推奨していた母子手帳の記載は1998年に削除され、変わって外気浴(戸外の新鮮な空気に触れること)が推奨されるようになりました。
紫外線とビタミンDの関係
一方で、最近はビタミンDが欠乏している子どもが増えていることも話題になっています。
ビタミンDは骨の成長と維持に必要不可欠で、不足することでくる病やX脚・O脚といった骨の変形が生じ、骨折しやすくなったりします。
ビタミンDの取り込み方は食事から栄養として摂取する場合と、紫外線に当たることにより皮膚で合成される場合の2通りがあります。
最近は子どもが紫外線に当たる頻度が減ることでビタミンD欠乏が増えていると指摘されています。
(出典元:日本小児内分泌学会. 患者さんおよび保護者の皆様へ(ビタミンD欠乏性くる病).)
では、実際にどれくらいの子がビタミンD不足なのでしょうか。
日本の報告では、乳幼児でビタミンDが不足している割合は、生後5か月以下で52%、6〜15か月で14%、16〜48か月で15%だったというものがあります。
(出典元:Nakano S, et al. Current Vitamin D Status in Healthy Japanese Infants and Young Children. J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo), 2018. 64(2): 99-105.)
ビタミンD不足は特に母乳栄養の赤ちゃんに多いともされており、離乳食を開始する生後5か月前までは不足が目立つのかもしれません。
では、ビタミンDのレベルを保つためにどれくらいの日光を浴びればよいのでしょうか。
地域や気候、時間帯によって大きく紫外線の量が変わるので一概にはいえませんが、日本人の肌で8月1日の昼の東京では、皮膚の25%(両腕と顔)に日焼け止めを使用せずに露出して日に当てると約3分が適切、1月1日に皮膚の12%(顔と手程度)では約50分が適切とされています。
ちなみに日光をたくさん浴びれば浴びるほど無制限にビタミンDが多く合成されるわけではなく、上限があることが分かっています。
(出典元:環境省.紫外線環境保健マニュアル2015.)
一方、DNA損傷による皮膚がんのリスクは日光をたくさん浴びれば浴びるほど増えていきます。
(出典元:Fabiana C P S Lopes et al. UV Exposure and the Risk of Cutaneous Melanoma in Skin of Color: A Systematic Review. JAMA Dermatol. 2021 Feb 1;157(2):213-219.)
紫外線曝露のリスクを回避しつつビタミンD欠乏に対処するには、まずビタミンD欠乏がリスクになる人を知ることが大事です。
それは妊婦や授乳中の女性、母乳栄養児、日照時間の少ない高緯度地域の人とされています。
したがって対策としては、たとえば妊婦さんの過剰な紫外線防御を避けることや、また特に欠乏がリスクとなりやすい母乳栄養の赤ちゃんにビタミンDサプリメントの補充を行うことなどが有効とされています。現在乳児用のビタミンDサプリメントも市販されています。
日焼け止めはいつから使い始める?
紫外線対策と言えば日焼け止めが思い浮かびますが、基本的には日焼け止め製品の使用試験が報告されているのは生後6か月以降になります。
したがって、日焼け止めの使用は生後6か月以降を目安に考えるのがよいでしょう。
また、乳児期には乳児湿疹が見られる場合もありますが、湿疹がある場所に日焼け止めを使うと悪化する可能性があり、避ける必要があります。
乳児期は皮膚が薄いため、基本的には帽子や衣類などによる物理的防御が優先されます。
紫外線は正午前後がもっとも強く、日かげに入ると紫外線の量は日なたの半分程度になります。
こども用の日焼け止めは何を使えばいい?
では、こどもに日焼け止めを使おうと考えた場合、何を選べばよいのでしょうか。
日焼け止めには散乱剤と吸収剤がありますが、吸収剤は白くなりにくい反面、まれに接触性皮膚炎を起こすため注意が必要で、こどもの場合には散乱剤のみを用いた商品が多いです。
最近日焼け止め製剤の塗布について調査した研究では、4種類の日焼け止め製剤を投与して、体内に吸収される吸収剤の成分を調査しました。
その結果、吸収剤の有効成分6種類すべてが皮膚を通して体内に吸収され、いずれも安全性の閾値を超える血中濃度だったことが分かりました。
(出典元:Matta MK, et al. Effect of Sunscreen Application on Plasma Concentration of Sunscreen Active Ingredients: A Randomized Clinical Trial. JAMA, 2020. 323(3): 256-267.)
この研究では日焼け止めの使用を中止すべきというわけではなく引き続き推奨するとしていますが、やはり子どもは念のため吸収剤を含まない「紫外線吸収剤無配合」「ノンケミカル」の製品を選ぶのがよさそうです。なお、子ども用の日焼け止め製剤は通常SPF15以上、PA++~+++で十分とされています。
日焼け止めの使い方の注意点は?
日焼け止めを初めて使用する際には、皮膚のかぶれのリスクを減らすため、最初の数日間は狭い範囲に日焼け止めを使ってみて、皮膚の異常がないかを確認した後に、問題なければ広い範囲に塗るのがよいと考えられています。
また、日焼け止めは時間が経つと汗で流れてしまうため、2~3時間おきにこまめに塗りなおすのがよいでしょう。そして、洗い流すときには石鹸を十分に泡立てて丁寧に落とすことが必要です。日焼け止めは意外にしつこく、軽く洗い流すだけでは落ちないことがあるためです。
お子さんのためにも、適切な使用方法で、かしこく日焼け対策をおこないたいですね。
執筆者
藤井 崇博先生
医療法人社団正恵会 ディオクリニック統括院長
経歴
専門領域は循環器内科で心臓領域を専門としており、研修医から2021年までの約10年間大学病院、関連病院で臨床、研究、教育に従事させて頂き、循環器内科専門医、循環器内科領域での医学博士号を取得しております。
現在も循環器疾患を含め外来での診療は継続させて頂いております。
循環器内科医として様々な患者さんの診察に日々従事する中で、何よりも大事なのは未病、医学的には一次予防と呼ばれる未然に病気になるのを予防しようとする意識が大事だと常々思います。
最近では対面でお話出来ないことも多いので、SNSやその他コラムなどで健康に有益な情報の発信に力を入れております。