4.進路や目標を決定した後は、それに対して素直な心が重要である
今思い返すと、進路を決定してからの私にとって幸いだったことがいくつかあります。
1つは、当時私が無知であったが故に、進路決定のノウハウを持った大人の意見に対して素直に従うことができたということです。私の場合、市販の小難しい参考書を買い漁るより先に、高校の基礎的な教科書を引っ張り出し、予備校のプログラムを言われるがまま勉強し尽くし、その結果、無事に受験を成功させました。あの時の私は本当に素直に予備校の勉強を貫き通した結果、1年半かかりましたが難関受験を通過することとなりました。
もし私が素直に大人のアドバイスを受け入れず、自己流の勉強法を行なっていたら、きっと受験でもっと遠回りをする羽目になっていたことでしょう(あるいは医者にすらなっていなかったかも!?)。
私に学習ノウハウをくれた予備校の先生方は受験のプロです。彼らのようなプロフェッショナルに出会い、それを素直に受け入れられた私は、本当に幸運でした。
もう一つは周囲と自分をあまり比較しなかったこと。そして、そうであるが故に自身と向き合って素直に目標達成のため一直線に素直な気持ちで向かっていけたことです。
上京して本当に驚いたのは、医師を志す人々は、幼い頃から英才教育を受けているケースが多いということです。前述した通り、幼少期から進学校を受験し、その厳しい環境に身を置いている人は、受験に対する厳しさや勉強のノウハウを私より知っています。
受験は相対評価、つまりそんな彼らとの競争であるため、最初は本当にプレッシャーが大きく、「彼らのように幼少期から勉強しておけばよかった」と何度も後悔しました。
しかし現実として、それをしてこなかった自分の過去は変えようもなく、受け入れるしかありません。自身と比較しても周囲の方に圧倒的アドバンテージがあるが故、私は比較しないことを徹底しました(焦ったり悲しくなったりするだけで、現実は何も変わりませんからね)。周囲と比較しなくなった私の心はとても軽くなり、素直に学問に対して向き合うことができました。
何事にも素直になる感性は、自身を伸ばしてくれる一番の近道です。医師になってからも周囲からさまざまなご意見を頂きますが、一度それを素直に受け入れることは本当に大切です。
そして私以外にもさまざまなクリニックがありますが、私は周囲と自分を比較することはありません。あくまで私にできる最大限を、私のできる範囲でコツコツと行うことに大きな意義を感じています。大人になった今でも、この素直な感覚は患者さんの診療やクリニック経営に生きていると実感しています。
中高生ともなると多感な時期であり、大人のアドバイスやノウハウを素直に受け入れられない方もいるかも知れません。普段から素直な気持ちを心がけるようにする姿勢を心がけることが大切であると考えます。
5.目標を修正する際の大人の言葉選びや、子どもの可能性を信じ許容してあげられる大人の柔軟な頭も重要である
私は「決定した進路の先にある未来のイメージが明確であればあるほどモチベーションは高まる」と前述しましたが、では仮にこれから進路を決定する中高生が思い描く未来のイメージが荒唐無稽なモノだったとしたら、大人はどう感じるでしょうか?
私を含めたほとんどの大人はおそらく「そんなうまい話は無い、もう少し現実を見て冷静に考え直してみたら?」といったアドバイスを送ることでしょう。
しかしこのアドバイスは子どものモチベーションを著しく低下させ、下手をしたら生涯消えることのないトラウマになってしまう可能性だってあります。信頼している大人に自身の将来を半ば否定されているようなものですから(医学部受験を決めた際、両親からあまり肯定的に受け入れられなかったことを、私は今でも少しだけ根に持っています)。
特に中高生は多感な時期でもあるので、より大人は言葉選びに頭を悩まされることでしょう。目標を修正してあげる際の言葉選びは慎重になるべきであり、これは両者の関係性に深く起因します。これらの関係性も、普段から対話をどれだけ重ねられているかによって左右されるものだと思います。
さらに難しいことに、頭ごなしに将来の夢、進路を修正するばかりでもうまくいきません。なぜならば子どもには大人の想像をはるかに凌駕する可能性が眠っているからです。
例えば、仮に10年前、高校球児の子どもから「将来野球選手になりたい、メジャーで160km/hの球を投げるピッチャーになって、打率3割、シーズン50本のホームランを打って50盗塁もしたい!」と言われたとしたら私はおそらく「もう少し現実的な話をしよう」と返答すると思います。しかしこれを達成した人がいる現在では話が変わってきます。
ゲームや漫画の中の話ではなく、実在する人間がそれを達成した以上は、それが「夢」ではなく「目標」となります。もはや荒唐無稽な話で無いのです。(こんなに具体的な目標ではなかったかもしれませんが)本場メジャーリーグで投打二刀流を目標に精進した高校球児と、それを10年以上も前に前例がほとんど無い中、子どもと一丸となって目標に邁進したご両親や指導者の方々には本当に感銘を受けるばかりです。
私は「荒唐無稽な未来のイメージ」と前述しましたが、もしかしたらそれを「荒唐無稽」と決めつけるのは、私のように頭の凝り固まった大人の偏見がつくり出すバイアスなのかもしれません。子どもの話を聞く大人の頭も、ある程度柔軟であるべきだと実感したエピソードでした。