「買いたい」のことばを飲み込んだ私

沙苗を抱っこしていつもの散歩道、川沿いを歩いていると、「おはよう!」と明るい声に呼び止められました。振り向くと、やっぱりみや子さんだ。

「今日も早いね~」と、笑顔で声をかけてくれたのは、最近知り合ったみや子さんです。散歩に出かけるようになって良かったことは、友達ができたこと。沙苗より少し月齢が上の赤ちゃんを抱っこして、みや子さんもたまに散歩しているのです。同じ境遇の仲間ができたことでどれだけ元気づけられることか。

「いつになったら長く寝てくれるようになるんだろって考えるとすごく気が遠くなって」「分かる~、うちもそのくらいの頃大変だった」なんて、なかなか寝てくれない赤ちゃんのことを話せるだけでホッとした気持ちになりました。みや子さんと話しながら歩いていると、すれ違った人から、ふわっと良い香りがしました。

振り返ると、すれ違った男性がテイクアウトのコーヒーを持っていました。みや子さんも気付いて教えてくれました。「あぁ!あれじゃないかな」コーヒーの良い香りが漂ってくる先は。

「わぁ~!コーヒーショップ!?カフェ!?」いつもの散歩道の近くに素敵なカフェがあるなんて知りませんでした。わぁ。本当に癒される香り。私、しばらくカフェなんて行ってないな。みや子さんが「ここ朝早くから開いててたまに行くんだけど、パンも美味しいしいいよ~」と教えてくれました。しかも朝は焼きたてパンが食べられるのだとか。

みや子さんが「行ってみる?」と誘ってくれました。嬉しかった。でも。「えっあっ・・・いや今日はいいかなっ。また今度行ってみます!」と私の口から咄嗟に出たのは断りのことば。

本当はこの癒しの香りをかいでからちょっとコーヒーが飲みたかったし、焼きたてのパンも買いたかった。でも「お財布忘れちゃって」と言い訳してなんとなく断ってしまったのは、育児しかしていない自分がそんな贅沢していいのか、という声が頭の中で聞こえたからでした。
沙苗ちゃんのお世話に毎日奮闘している香苗さんは、寝不足で身体がボロボロでも沙苗ちゃんが泣いたら「私が全部やらなくちゃ」と気負っている様子ですね。ご主人が泣き声にまったく起きる気配無く気持ちよさそうに寝ていても外で働いてくれているのだから、と遠慮しているようです。自分のためだけの美味しいコーヒーお金を使うことに罪悪感を感じてしまっているのですね。
※ストーリーは実体験を元にフィクションを加えた創作漫画です。
登場人物や団体名は仮名であり、実在の人物や団体等とは関係ありません。
創作漫画としてお楽しみください。
監修・校正:ママ広場編集部 編集:石野スズ
脚本・作画:めめ
のらりくらりと育児をしながら日常のイラストを描く4児の母。