健康的・純粋な食事への強いこだわりが支障をきたす状態を「オルトレキシア」と呼びます。今回は林外科・内科クリニック理事長の林裕章先生が、オルトレキシアの症状やサイン、家庭での対応策などを詳しく解説します。

「子どもの健康のために、できるだけ体によいものを食べさせたい」。そう考えるのは自然なことです。ただし、「健康によい食事」がいつの間にか絶対的なルールになり、決めたもの以外を食べることへの強い不安や罪悪感、家族や友人との食事を避ける行動につながることがあります。こうした状態は「オルトレキシア(orthorexia nervosa)」と呼ばれます。1997年にアメリカの医師が提唱した言葉で、DSM-5-TRやICD-11といった国際的な診断基準には載っていません。「健康的・純粋な食事へのこだわりが強くなりすぎ、かえって心身や生活に支障をきたす状態」として理解されています(※1)。
新型摂食障害ともいわれているオルトレキシアってどんな病気?症状や原因について
この状態において問題になるのは、「何を食べるか」より、食事のルールが極端に厳しくなり、少しでも例外を認められなくなることです。添加物、砂糖、脂質、加工食品、微量の農薬、特定の食品群などを「体に悪い」「汚れた食べ物」と考え排除します。「オーガニックでないと食べない」「少しでも油が入っていたら気になる」など、食材選びや調理法の確認に膨大な時間を費やし、ルールを破ると強い自己嫌悪に陥ります。進行すると、外食や給食、友人宅での食事が難しくなり、学校生活や人付き合いに支障が出ます(※1)。
「健康のため」に始めた食事制限が、皮肉にも深刻な健康被害を招く危険性があります。食品の選択肢を極端に狭めることで、成長期に必要なエネルギー、たんぱく質、ビタミン、カルシウム、鉄分などが不足します。成長期の子どもでは、身長の伸びが悪くなる、初経が遅れる、月経が止まる、骨がもろくなるといった影響が現れ、思春期前に始まった場合は最終的な身長が低くなることも知られています(※2)。重い栄養不足は通常の摂食障害と同様に、命に関わります(※3)。
一生分の骨量は、その大半が10代のうちにつくられます。この時期に足りないと、後から食事を戻しても取り戻せないことがあり、何十年も先の骨折や骨粗しょう症のリスクとして残ります。
「やせていないから大丈夫」とも限りません。体重が標準でも、食べられる物の種類が減れば貧血や骨のもろさが現れます。栄養不足が進むと体は脈を遅くし、体温や血圧を下げるため、元気そうに部活へ通っているのに脈が1分間に40〜50回まで落ちていることがあります。心臓に負担がかかった危険なサインです(※2)。
原因は一つではありません。完璧主義的な性格、強い不安感、コントロールへのこだわり、SNS等で溢れる極端な健康情報の影響などが絡み合っていると考えられています。ただし、断定できる証拠はまだありません。
「○人に1人」といった数字も見かけますが、研究ごとに判定基準が異なり、信頼できる割合はまだ分かっていません。数字より、目の前のお子さんの様子を見ることが大切です(※4)。
[保護者が気づきたいサイン]
・「これは毒」「これは不潔」など、食品を極端に善悪で分ける
・食べられる食品が少しずつ減っている
・成分表示や調理法の確認に非常に時間がかかる
・給食、外食、旅行、誕生日会などを食事が理由で避ける
・サプリメントや健康食品の種類・量が増えている
・体重減少、立ちくらみ、疲れやすさ、月経の停止、脈の遅さ、手足の冷えなど身体の変化がある
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