
思春期の「夜型化」は、サボりではなく生理現象
小学校高学年から中学生にかけて、お子さんの生活リズムが急に変わった、と感じたことはないでしょうか。夜更かしが増え、朝はてこでも起きない。休日は昼まで寝ている。声をかけると不機嫌に返事をする。
多くのご家庭で起こる、あの変化です。「だらしなくなった」「生活が乱れている」「反抗期だ」、そう受け取りたくなる気持ちは、よくわかります。けれど、その大部分は、本人の意志やしつけの問題ではありません。
思春期に入ると、眠りを促すホルモン「メラトニン」の分泌される時刻が、年齢とともに後ろへずれていきます。思春期の睡眠をめぐる研究をまとめたレビューによれば、就床時刻は学年とともに遅くなっていきます[6]。一方で起床時刻は学校の始業に縛られるため、結果として眠れる時間そのものが削られていきます。体内時計そのものが、生物学的に夜型へと傾いていきます。特定の子供だけの問題ではありません。世界中の思春期の子供に共通して起こる、発達の正常な一部です[6、7]。
体内時計が後ろにずれるのですから、夜になっても眠くならない。寝つけるのが11時を過ぎるのも、ごく自然なことです[7]。一方で、学校は朝の決まった時刻に始まります。体はまだ眠る態勢が解けていないのに、無理やり起こされる。毎朝、軽い時差ボケのなかで叩き起こされるようなものです。本人がどれだけ「早く寝よう」と決意しても、体のほうがまだ眠る準備に入っていないのですから、簡単にはいきません。
もう一つ、重要な事実があります。この時期の子供は、夜の光に強く反応します[8]。同じ明るさの光を浴びても、思春期後半の子供に比べて、前半の子供のほうが、メラトニンを強く抑え込んでしまいます。ただでさえ後ろにずれている体内時計が、夜の光によってさらに後ろへ押しやられる。
ここで、現代特有の問題が浮かび上がります。スマートフォン、タブレット、ゲーム機です。
子供の睡眠は、デジタル機器の影響を大人より受けやすいと考えられます。先に述べたとおり、思春期の子供は夜の光に敏感です[8]。この研究で使われたのは特別な光源ではなく、日常的な室内の明るさに近いレベルの光でした。スマホやゲーム機の画面から出る光も、暗い部屋で夜に顔の近くで見つめる以上、同じように体内時計へ届くと考えるのが自然です。大人が「このくらいなら大丈夫」と思うレベルの画面の光でも、発達途上の子供の脳には強く作用する可能性がある。思春期の自然な夜型化と、夜の画面の光、この二つは、悪い意味で相性が抜群です。生まれつきのリズムのずれに、毎晩の光が拍車をかける。その果てが、「夜眠れない、朝起きられない」という、あの悪循環です。
ここまでを整理します。本物のショートスリーパーや極端な夜型体質の人は、ごく一部しか存在しません。お子さんが「短い眠りで平気」「夜型」に見えるとき、その正体はたいてい、思春期の自然な体内時計のずれと、それを悪化させる生活習慣の組み合わせなのです。
であれば、打つ手はあります。
家庭で今日から始められること。鍵は「光」と「時刻」
体内時計が生理現象で後ろにずれるのなら、もう手の打ちようがないのか。そんなことはありません。後ろにずれた時計を、前へ引き戻す方法があるからです。鍵は二つ、「朝の光」と「夜の光」です。
体内時計をリセットする、最も強力なスイッチが朝の光です。朝、目から強い光が入ると、体内時計の針が前へと進み、夜に眠気が訪れる時刻も少しずつ早まっていきます。難しいことはいりません。起きたら、まずカーテンを開ける。可能なら、朝のうちに少しだけ外に出る。
「曇りの日は意味がないのでは」と思われるかもしれませんが、そうではありません。室内の照明よりも、曇りの日の屋外のほうが、はるかに明るいものです。たとえ天気が悪くても、外に出て光を浴びることには確かな意味があります。登校するなら、できる範囲で歩く時間をつくる。それだけでも、体内時計には良い刺激になります。
一方で、夜の光は時計を後ろへずらします。だからこそ、就寝の1〜2時間前からは、スマホやタブレット、ゲーム機の画面を手放すことをおすすめします。先に述べたとおり、子供の脳は夜の光に大人より敏感です[8]。「ほんの少しなら」が、大人の感覚での「少し」では済みません。
つい見落としがちで、けれど効果の大きいポイントがあります。休日の寝坊です。
平日は7時に起き、休日は昼の12時まで眠る。その差は5時間にもなります。体にとっては、週末ごとに5時間の時差がある国へ旅行して帰ってくるようなもの。月曜の朝が地獄のように辛いのも当然です。休みの日も、平日との起床時刻の差は、できれば1〜2時間以内に抑える。寝坊したい気持ちをぐっとこらえて、いつもより1時間遅いくらいで起きてみる。これだけでも、月曜の朝の負担はずいぶん変わってきます。
寝る前の習慣も見直してみましょう。スマホを手放したあとの30分を、心が落ち着く時間に充てます。本を読む。その日あったことを家族で話す。明日の準備をする。毎晩同じ流れを繰り返すと、体が「もうすぐ眠る時間だ」というサインを受け取りやすくなります。
ひとつ、親として心に留めておきたいことがあります。子供は、親の言葉よりも行動を見て学ぶ、ということです。「スマホは寝室に持ち込まないで」と言いながら、自分はベッドでスマホを眺めている。それでは説得力がありません。夜のデジタル機器を遠ざける習慣は、家族みんなで取り組むほうが、うまくいきます。
無理に「早く寝なさい」と布団へ追い立てるよりも、朝の光をしっかり浴びる、夜の光を減らす、休日も起床時刻を大きくずらさない。この三つのほうが、ずっと理にかなっています。
ただし、生活習慣で片づけてはいけない場合がある
ここからが、私がいちばんお伝えしたいことです。
これまで述べてきた工夫は、あくまで「生活リズムの乱れ」が原因の場合の話です。けれど「朝起きられない」の背景には、生活習慣だけでは説明のつかない、医学的な問題が隠れていることがあります。
たとえば、起立性調節障害という病気があります。自律神経の調節がうまくいかず、朝は血圧が上がらないために起き上がれない。立ちくらみ、めまい、頭痛、吐き気。午前中は本当に動けないのに、午後から夕方になると元気を取り戻す。そんな特徴を持つ病気で、思春期の子供にしばしば見られます。
強調したいことがあります。これは「怠け」でも「夜型」でも「仮病」でもなく、れっきとした身体の病気です。声をかけても、体を揺すっても、物理的に起き上がれない。無理に起こそうとすると強い頭痛や吐き気を訴える。午前中は顔色が悪く、ぐったりしている。こうした様子があるなら、生活指導だけで解決する話ではありません。診断には起立試験などの検査が必要になりますから、小児科などの専門機関に相談してください。
朝の不調や睡眠リズムの乱れの裏に、うつ病が潜んでいることもあります。子供のうつ病は、大人とは現れ方が違います。大人が「悲しみ」や「憂うつ感」を訴えるのに対し、子供では「イライラ」や怒りっぽさ、あるいは頭痛や腹痛といった体の不調として現れることが多く、それゆえに見逃されがちです。うつ病では、睡眠を調整する脳の働きそのものが乱れることが知られています。夜眠れず朝起きられないという睡眠リズムの乱れも、単なる夜更かしではなく、心の不調のサインの可能性があります。
私はこれまで、不登校を主訴に受診してくれた子供たちを数多く診てきました。その背景には、さまざまな精神疾患や心身症が潜んでいることが少なくありません。「朝起きられない」「生活リズムが乱れている」というのが、その入り口だったケースも、けっして珍しくありません。「夜型だから」「ショートスリーパーだから」と片づけて様子を見ているうちに、背後の病気が見過ごされてしまう。これが、私のいちばん恐れていることです。
では、いつ専門家に相談すべきなのか。一つ、目安があります。
朝の光と夜の光、起床時刻を整える工夫を、2〜3週間ほど続けてみる。それでも、いっこうに改善しない。あるいは、起きられないことで遅刻や欠席が続き、学校生活という社会生活そのものが立ち行かなくなっている。本人は「行きたい」と思っているのに、体が言うことを聞かず、できない自分を責めている。こうした状態が見えてきたら、それはもう、家庭だけで抱える段階を越えています。
そのときは、どうかためらわずに、小児科や心療内科、児童精神科に相談してください。「精神科」という言葉に抵抗があるなら、まずはかかりつけの小児科や、思春期外来から始めても構いません。受診の際は、就寝時刻、寝つくまでにかかった時間、夜中に目を覚ましたかどうか、起床時刻、日中の眠気などを、2週間ほど記録して持参すると、診断の大きな助けになります。
おわりに
「うちの子はショートスリーパーかもしれない」「夜型だから仕方ない」。そう思いたくなる気持ちは、痛いほどわかります。そう考えれば、ひとまず心が落ち着くからです。
けれど、本物のショートスリーパーは、ごく一握りしかいません。お子さんの「短い眠り」「夜型」の正体は、その大半が、思春期の自然な体内時計のずれか、あるいはその背後にひそむ別の問題のサインです。
体質のせいにして見守るのでもなく、意志が弱いと責め立てるのでもなく、まずは光と時刻を整えてみる。それでも変わらないなら、専門家の目を借りる。この二段構えで臨んでいただきたいと思います。
お子さんの眠りは、私たちが思っているよりずっと多くのことを、静かに教えてくれています。その小さなサインを、どうか見逃さないであげてください。
※論文の検索、内容の推敲、ファクトチェック(事実検証)に生成AIを使用しています
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