うちの子、寝なくてもいいって言うから、ショートスリーパーの可能性もあるかも?そもそも「夜型」や「ショートスリーパー」って存在するものなの?病気などの疾患の可能性もある?そんな疑問はありませんか?今回は大人の漢方・心療内科出雲いいじまクリニック院長の飯島慶郎先生にお話をお伺いしました。

「うちの子、寝るのが遅くて朝もわりと弱いんです。でも昼間はそれなりに元気だし、夜型だから仕方ないのかなって」
診察室で、こんな言葉を耳にすることがあります。「もしかしてショートスリーパーなのかもしれない」と、半ばあきらめたように話されるお母さん、お父さんもいます。
睡眠時間が短くても平気な人がいる、そんな話は、なんとなく聞いたことがあるでしょう。歴史上の偉人が「私は一日3時間しか眠らない」と豪語した、といった逸話も語り継がれています。「夜型人間」という言葉も、すっかり市民権を得ました。だから「うちの子もそういう体質なのでは」と考えるのは、ごく自然なことです。
では、本物のショートスリーパーや夜型の人は、本当に存在するのでしょうか。そして、見分けられるのでしょうか。
結論から言えば、答えは「イエス、しかし」です。確かに存在します。けれど、思っているよりはるかに少ない。「うちの子がそうかもしれない」という推測の大半は、残念ながら外れています。責めているのではありません。なぜそうなるのか、知っておくと役に立つ科学があるからです。今日はその話を、順を追ってさせてください。読み終えるころには、お子さんの「朝起きられない」を見る目が、少し変わっているはずです。
4時間で平気な人は確かにいる。ただし、ごく稀
まず、本物のショートスリーパーから話を始めましょう。
医学の世界では「家族性自然短時間睡眠(FNSS)」と呼ばれる体質が知られています。4〜6時間ほどの睡眠でも、日中に眠気を感じず、注意力や記憶力も落ちず、気分も健康も保ったまま暮らせる人たちのことです[1]。強調しておきたいことがあります。彼らは意志の力で頑張って起きているわけではありません。徹夜明けにコーヒーで気合いを入れて乗り切る、というのとはまったく違います。体のほうが、もともと短い睡眠で足りるようにできているのです。眠りたい欲求と戦ってもいないし、週末に寝だめをする必要もありません。
なぜそんなことが起きるのか。ここからが面白いところです。
2009年、アメリカの研究チームが、ある家系の二人に注目しました。どちらも、毎晩6時間ちょっとの睡眠で何の支障もなく元気に暮らしていました。二人の遺伝子を詳しく調べたところ、「DEC2」という遺伝子の、たった一か所の変異が見つかりました[2]。
この遺伝子は、脳のなかで「目を覚ましておけ」という信号にブレーキをかける役割を持つと考えられています。後の研究で、DEC2は覚醒を促す「オレキシン」という物質の生産を抑えることがわかってきました[3]。ところが変異があると、ブレーキが効きにくくなる。覚醒を促す力が相対的に強まり、結果として短い睡眠で足りるようになると考えられています。実際、こうした体質の人たちは、4〜6時間ほどの睡眠で日中を支障なく過ごせます[1]。
「たまたまその二人がそうだっただけでは」と思われるかもしれません。けれど研究チームは、同じ変異をマウスに人工的に導入する実験まで行いました。すると、そのマウスもやはり睡眠時間が短くなりました[2]。この遺伝子変異こそが、短時間睡眠の原因である、因果関係まで示されたわけです。「研究があるらしい」という伝聞ではありません。家系の発見から動物実験での裏づけまで、きちんと筋の通った話です。
その後、DEC2以外にも複数の遺伝子が短時間睡眠に関わることがわかってきました。こうした短時間睡眠の体質は、健康を害しているわけではないと考えられています。少ない睡眠で得をしている人たちが、ごく一部に実在します。
ただ、何より大事なのは、その希少さです。
本物のショートスリーパーをもたらす遺伝子変異は、これまで世界でほんの数えるほどしか特定されていません。インターネット上には「人口の1%ほどがショートスリーパー」といった情報も見かけますが、その根拠は今ひとつ確かではありません。原因となる遺伝子変異があまりに稀で、確定診断された人がごく僅かしかいないため、人口にどれくらいいるのか、正確な割合はまだ分かっていないのが実情です。ただ一つ確かなのは、「ほとんどいない」どころか「極めて稀」と言うほうが、現実に近いということです。
「夜型」のほうも、思い込みが生まれやすい点ではよく似た構図にあります。ただし、ショートスリーパーとは決定的に違うところが一つあります。本物のショートスリーパーがほぼ存在しないのに対し、「夜型寄り」の人は、決して珍しくないのです。
朝型・夜型という体質の傾向そのもの、専門的には「クロノタイプ」と呼びます。は実在し、生まれ持った体内時計の個性です。極端に夜型へ偏った人も一定数います。とりわけ思春期には夜型に傾く子が増え、その年代の一定の割合が、医学的に「睡眠相後退」と呼べるほどの極端な夜型に当てはまるとされます[4]。もう少しゆるやかな「夜型寄り」まで含めれば、その割合はさらに高くなります。
だからこそ、やっかいです。本物のショートスリーパーなら「自分はそうかも」と思ってもまず外れますが、「夜型」のほうは、本当に夜型体質の子が一定数いるぶん、「うちの子は夜型だから」という説明が、もっともらしく聞こえてしまう。けれど、自分や子供を「夜型だから」とあきらめている人の多くは、その不調が本当に生まれ持った夜型体質だけのせいなのか、立ち止まって考えてみる必要があります。ここにも、大きな落とし穴があります。
「うちの子は夜型」の正体は、たいてい別のところにある
では、本物とそうでないものを、どう見分ければいいのでしょうか。
睡眠の専門家がよく口にする、シンプルな目安があります。「週末に長く眠るかどうか」です。
本物のショートスリーパーは、土日に寝坊しません。平日に4時間で足りているなら、休みの日も4時間ほどで勝手に目が覚める。眠りの「借金」がそもそも存在しないからです。逆に、平日はいつも短いのに、休日になると昼過ぎまで眠ってしまう子は、まず本物ではありません。平日のあいだに積もりに積もった睡眠不足を、休みの日に必死に返済している、そう考えるほうが、はるかに自然です。実際、極端な夜型の子供たちも、平日に削られた睡眠を休日に取り戻そうとして、休みの日の睡眠が延びる傾向が知られています[4]。
ここで、ぞっとするような研究があります。
ある脳画像の研究で、「自分は短時間睡眠でまったく平気だ」と申告した人たちの、安静時の脳活動を調べました。安静にしているとはいえ、起きている状態での測定ですから、本来なら覚醒した脳のパターンが現れるはずです。ところが彼らの脳の活動パターンは、覚醒よりもむしろ睡眠に近いものを示していたのです[5]。本人は「起きている、平気だ」と思っている。けれど脳のほうは、覚醒の度合いを落としている。この研究は、「自分は短くても平気だ」という自己評価が、必ずしも当てになるとは限らない可能性を示しています[5]。
私たちの直感を裏切る事実です。「自分は短くても大丈夫」という自己評価は、思っているほど当てになりません。大人でさえそうなのですから、子供ならなおさら慎重に見たほうがよいでしょう。
研究者たちの見方は、ほぼ一致しています。自称ショートスリーパーの大多数は、特別な体質を持っているのではなく、ただ慢性的に睡眠が足りていないだけです。自称夜型の場合も、多少の夜型傾向はあったとしても、朝の不調の主因はむしろ睡眠不足や生活リズムの乱れにある、というケースが大半です。厄介なことに、足りない状態が日常になりすぎて、本人がそれを「ふつう」と感じてしまっている。眠気をカフェインでごまかし、会議中や移動中にうとうとしているのに、「自分は眠らなくても平気」と勘違いしている大人は、決して珍しくありません。
子供の場合は、ここにもうひとつ、見逃せない事情が加わります。思春期という時期に固有の、体の変化です。
![ママ広場 [mamahiroba]](https://mamahiroba.com/wp-content/themes/mamahiroba-2024/images/common/logo.webp)
