
チック以外に重なりやすい困りごと
ここは、ぜひ知っておいていただきたいところです。
チックのあるお子さん、とくにトゥレット症候群のお子さんでは、チック以外の特性が重なることがよくあります。よく重なる特性は2つあります。「注意の集中が続きにくい・じっとしていられない」という特性と、「こだわりが強くて切り替えにくい」という特性です。
デンマークでトゥレット症候群の子どもを6年間追跡した研究では、思春期を過ぎるころには多くの子でチックが軽くなった一方、6割を超える子にチック以外の症状もみられました。
そして見落とされがちなのですが、日々の暮らしのしづらさは、チックそのものよりも、チック以外の特性によることが少なくありません。授業についていけない、忘れ物が多い、友達とぶつかる、気持ちの切り替えに時間がかかる。ご家族が何に困っているのかをうかがうと、チックの話は出てこないことすらあります。
さらに、こうした困りごとには、打てる手がたくさんあります。チックには波があり、本人の意思どおりにはなりません。チックそのものへの対応に加えて、重なっている困りごとにも手を打つことで、生活しやすくなります。
家庭でできること
ここからは、日常生活で取り組めることをお伝えします。
指摘しない。これがいちばん大切です。「また出てるよ」「気をつけて」と言われると、そこが気になって、かえって出やすくなります。悪気のない声かけでも、繰り返されれば子どもの負担になります。
気づかないふりをするのではなく、気にしていないことを態度で示す。子どもは、この違いを感じ取ります。チックが出ている最中も、会話や作業を普通に続ける。それだけで「これは騒ぐことではない」という空気が生まれます。
疲れや緊張をためこませない。チックが強くなる時期には、予定を詰めない、睡眠をしっかりとる、宿題の量を相談する。こうした工夫が効きます。行事の前に強くなるのは自然なことなので、その前提で予定を組んでおくと親子とも楽になります。
「出してもいい場所」を家の中に作る。学校でこらえている子ほど、家に帰って緊張が解けたときにチックが出やすくなります。帰宅後しばらくは、チックを気にせず自由に過ごせるようにする。それだけで、子どもは息をつけます。
記録を残す。いつ頃、どんな動きが出たか。いつ強くなったか。簡単なメモで構いません。波があるからこそ、受診したときに医師が経過をつかみやすくなります。写真や動画を撮っておくのも役立ちますが、本人がいやがるなら無理には撮らないでください。
本人にどう説明するか
お子さん本人が「自分の体が変だ」と感じて不安になっていることがあります。本人は、まわりにはわからないような体の変化にも気づいています。
説明の仕方は、年齢によって変えてかまいません。小さいお子さんなら「体がときどき勝手に動いちゃうことがあるんだよ。○○ちゃんのせいじゃないよ」で足ります。学童期以降なら「脳から体に行く合図が、ときどき勝手に出ることがある。がまんしてもたまっちゃうから、がまんしなくていいよ」といった説明が伝わりやすいでしょう。
結局、伝えるべきことはひとつです。あなたのせいではない。これが本人に届いているかどうかで、その後、本人が自信を持てるかどうかも大きく変わります。
家族みんなで理解をそろえる
家族みんなが同じように理解しておくことも、とても大切です。
きょうだいや祖父母が「やめなさい」と言ってしまうと、子どもは家の中にも安心できる場所がなくなってしまいます。「本人のせいや育て方のせいではなく、脳の働きに関係するもので、意思だけでは自由に止められない」と、家族みんなで理解しておきましょう。家族が同じ理解で接するだけでも、大きな効果があります。
きょうだいには、責める口調を避けながら、まねをしないでほしいと伝えておくとよいでしょう。まねをされると本人は深く傷つきますが、幼いきょうだいには悪気がないことがほとんどです。
学校に伝えておきたいこと
学校では、担任の先生に事情を伝えておくと本人の負担が減ります。伝える内容は多くありません。
意思では止められないこと
注意すると悪化すること
テストや発表の場面で強く出ることがあること
この3点で足ります。加えて、音声チックが出るときの席の位置や、試験中の周囲への伝え方を相談しておくと、本人が安心して臨めます。教室を一時的に離れてもよいと決めておくだけで、本人が追い詰められずにすみます。
チック症・トゥレット症候群は、法律上は発達障害に含まれます。学校に配慮を求める根拠になるため、必要に応じて相談してみてください。
からかわれているようなら、早めに学校に伝えてください。チックそのものより、からかわれた経験のほうが心に長く残ることがあります。
専門家に相談する目安
日常の工夫だけでは対応しきれないこともあります。次のような様子があるときは、医療機関に相談してみてください。
症状が1年以上続いている
本人が困っている、つらいと言っている
学校生活や友達づきあいに支障が出ている
動きによって体が痛む、けがをする
悪化してきている
落ち着きのなさ、強いこだわり、不安の強さなど、チック以外の困りごとが重なっている
相談先は、小児神経科、児童精神科、小児科の発達外来などです。診断は問診と経過の観察が中心で、多くの場合、特別な検査は必要ありません。
チックのことで受診したときには、ぜひチック以外の困りごとについても話してみてください。ふだんの様子をよく見ているご家族の話が、いちばん確かです。
軽いチックが数か月で落ち着いていく場合は、無理に受診しなくても構いません。専門家に相談すれば、「このまま様子を見てよいのか、手を打ったほうがよいのか」を見極めてもらえます。
治療の第一歩は正しく知り環境を整えること
国内外のガイドラインでは、まず病気について正しく知り、環境を整えるよう勧めています。ここまでお伝えしてきたことが、そのまま治療の第一歩です。
叱らない。指摘しない。家族で説明をそろえる。学校と共有する。地味に見えるかもしれませんが、どれも医療の現場で勧められている方法です。
行動療法という選択肢
日常の工夫だけでは足りないときは、次に行動療法を考えます。近年は、各国の指針も、まず試す治療として行動療法を挙げています。
行うことは、大きく2つあります。
ひとつは、チックが出る前に現れる感覚に気づく練習です。いつ、体のどこに、どのような感覚が現れるのか。まずは、それを自分で観察できるようになるところから始めます。
もうひとつは、チックの代わりになる動きを決めて練習することです。たとえば首を振るチックがある子なら、むずむずが来たときに首の筋肉をそっと固める、といった別の動きをあらかじめ決めておきます。がまんするのではなく、置き換える。ここが大きな違いです。
9歳から17歳の子ども126人を対象にした比較試験があります。この方法に10週間取り組んだグループでは、症状がはっきりと改善した子が半数を超えました。一方、比較のために別の支援を受けたグループでは2割弱にとどまり、大きな差が出ました。
ただし、日本では受けられる場所がまだ限られています。関心があれば、受診したときに「行動療法を受けられるところはありますか」と尋ねてみてください。当事者団体が相談を受け付けている場合もあります。
薬物療法と日本の事情
生活の支障が大きいときには、薬を使うことがあります。ここは正確にお伝えしておきます。
日本には、チック症・トゥレット症候群に対して効能が承認された薬がありません。 日本小児心身医学会も「本邦ではチック症に対して適応がある薬剤は残念ながらありません」と明記しています。
つまり、日本でチックに薬物療法を行う場合、本来は別の病気に承認された薬を、医師の判断で処方することになります。 これを適応外使用といいます。海外にはチックに対して承認されている薬もあり、承認の状況は日本と異なります。
ここで、少しややこしい点があります。
適応外使用では、「保険で認められるかどうか」という問題が出てきます。アリピプラゾールについては、2022年2月、トゥレット症候群に使った場合も保険の審査で認めるとの取り扱いが示されました(社会保険診療報酬支払基金の審査情報提供事例)。承認効能が追加されたわけではありませんが、実際の診療では使いやすくなっています。
日本の専門家は、まずアリピプラゾールを、次の選択肢としてリスペリドンをすすめています。このほか、もともと高血圧の治療に使われていた薬や、注意を集中しやすくする薬も、症状やほかの困りごとに合わせて使い分けます。
漢方薬から始める選択肢
日本ならではの選択肢として、漢方薬があります。よく使われるのは抑肝散です。「肝の高ぶりを抑える」という意味の名前がついた処方で、古くから子どもの神経の高ぶりに用いられてきました。
私自身、まず抑肝散から始めることがよくあります。眠気や体重増加といった負担が出にくく、ご家族が受け入れやすいからです。そして実際に、これだけでチックが目立たなくなるお子さんもいるからです。
ただし、限界もお伝えしておきます。漢方薬は、チックへの効果を大規模に調べた研究が西洋薬ほど多くありません。 効かないときは、漢方薬にこだわらず、別の治療も検討します。
診断名がつくことの意味
「トゥレット症候群」と告げられて、不安になるご家族は少なくありません。重い病気の宣告を受けたように感じられるからです。
冒頭で「違いはあるけれど、それはご家族が心配されている点ではない」とお伝えしました。その違いが何なのか。ここからがその話です。
トゥレット症候群と呼ぶか、ほかのチック症と呼ぶかだけで、治療法や今後の見通しが決まるわけではありません。 2024年に日本で出た小児チック症の診療ガイドラインでも、名前で区切らず、チック症全体を扱っています。
では、診断名は何のためにあるのか。支援を受けられるようにするためです。
日本では、精神障害者保健福祉手帳の判定基準に、重い多発性のチックを伴う「トゥレット症候群」という病名が挙げられています。学校で配慮を求めるときや、将来的に福祉の制度を利用するとき、あるいは新しい治療法の対象になるとき。そうした場面では、診断名が手続きの助けになります。
そしてもうひとつ、診断名があれば、「わざとやっているのではない」と、まわりに理解してもらいやすくなります。学校の先生に、祖父母に、きょうだいに、そして本人自身に説明するときも同じです。名前がないまま「くせ」と呼ばれ続けた子は、それだけつらい思いを重ねることになります。
診断名は、病気の重さを宣告するものではなく、必要な支援を受けやすくするためのものです。そう受け取っていただければと思います。
これからの見通し
多くのお子さんでは、チックは10歳から12歳ごろにいちばん強くなり、思春期のあいだに軽くなっていきます。
ただ、長く追いかけた研究を見ると、チックが完全に消えるとは限りません。本人は「もう治った」と思っていても、まわりから見ると動きが残っていることがあります。大人になっても軽い支障が残る方はいますが、進学や就職、結婚を経験し、生活に満足している人も多くいます。
つまり、消えるというより、あっても気にならない状態に落ち着いていく。これがいちばん実態に近い言い方です。
だからこそ、ゼロにするのではなく、その子が困らずにすむところを目指すのがよいと考えています。ゼロを求めると家族は消耗してしまいます。
相談できるところ
診療機関のほかにも、当事者やご家族の団体があります。NPO法人日本トゥレット協会は、家族の交流会や講演会を開いたり、学校や教育委員会へ講師を派遣したりしています。同じ経験をしたご家族とのつながりも、医療とは違った支えになります。
チックは、子どもの5人から10人に1人が通る道です。目のパチパチに気づいても、まずは原因を探したり、無理にやめさせたりしなくて構いません。家族で「これは叱ることではない」と受け止めるところから始めてください。
※本記事の執筆にあたり、論文検索および構成の整理に生成AIを活用していますが、医療情報としての正確性は専門医が確認・監修しています。
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