受験や発表会のプレッシャーでお腹が痛くなる子ども。寄り添い方について医学博士石岡先生にお伺いしました

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「お腹が痛い」と言われたら、どう対応すればいい?

お子さんに「お腹が痛い」と言われたとき、まず大切なのは、その気持ちに共感し、安心させてあげることです。身体的な異常が見つからない「機能性ディスペプシア(FD)」や「過敏性腸症候群(IBS)」といった機能性消化管障害(FGIDs)では、精神的なケアが症状の緩和につながることも少なくありません。「痛いんだね」「つらいね」といった寄り添いの言葉をかけるだけでも、子どもは安心し、痛みが和らぐことがあります。

具体的な家庭での対処としては、まず騒がしい場所を避け、静かで落ち着ける環境で休ませてあげることが基本です。また、辛いものや脂っこいものなど、腸に刺激を与える食べ物は控え、規則正しい時間にバランスのとれた食事をとるよう心がけましょう。さらに、十分な睡眠と軽い運動は、自律神経のバランスを整え、腸の働きを助けます。加えて、趣味や遊びなど、子どもがリフレッシュできる時間を確保することも大切です。たとえば、親子でお茶を飲みながら会話を楽しむ時間を持つなど、リラックスできるひとときを一緒に過ごすことは、ストレスマネジメントの一環として非常に有効です。

こうした対応は、一見ささいなことのように思えるかもしれませんが、実際の診療ガイドラインでも、ライフスタイルや生育環境が病態に関与することが明記されており、保護者の共感や家庭での安心感が、子どもの腹痛の軽減に大きく影響するとされています[※2]。ただし、症状が長引く場合や、夜間に目が覚めるほど強い痛みがある場合には、自己判断せず、早めに医療機関を受診することが重要です。

お医者さんに診てもらった方がいい場合もある?受診の目安と「危険なサイン」

お子さんの「お腹が痛い」という訴えに対して、まずは家庭で見守ることも大切ですが、なかにはすぐに医療機関を受診すべき「危険なサイン(警告症状)」が隠れていることもあります。たとえば、発熱を伴う腹痛、右下腹部の強い痛み、頻繁な下痢や血便などがある場合は要注意です。

これらは、虫垂炎(いわゆる盲腸)や潰瘍性大腸炎など、放置すると重症化する病気のサインかもしれません。また、これらの警告症状がない場合でも、腹痛が数週間から数ヶ月の長期にわたって続き、改善が見られない場合や、腹痛のために学校に行けない、遊びに参加できない、食事が摂れないなど、日常生活に大きな影響が出ている場合、腹痛とともに、不安、抑うつ、不眠、食欲不振などの精神的な不調を伴う場合など、家庭でのケアだけでは限界を感じる場合には、早めに小児科や消化器専門医を受診しましょう。

必要に応じて、小児心身症の専門医による心と体の両面からのケアや、多職種によるサポートが受けられることもあります。お子さんの「お腹が痛い」は、体からのSOSだけでなく、心からのサインであることもあります。無理をさせず、早めに専門家の手を借りることが、つらさの軽減と安心につながります。

保護者として知っておいてほしいこと

お子さんの「お腹が痛い」という訴えに対し、どのように寄り添い、支えていくかは、心身の健やかな成長に大きく関わります。最も大切なのは、お子さんの話をじっくりと聞くことです。「気のせい」や「甘えている」といった言葉は避け、「痛いんだね、つらいね」と気持ちに共感してあげましょう。お子さんの言葉だけでなく、表情や態度からも小さなサインを読み取ろうとする姿勢が、子どもにとっての安心感につながります。

また、頑張ることを求めすぎず、結果よりも努力の過程を認めてあげることも大切です。時には「無理しなくてもいいよ」「休んでいいんだよ」と伝えることや、「ママ(パパ)はいつも味方だよ」といったポジティブな声かけで、子どもの自己肯定感を上げ、ストレス耐性を育むことができます。特に、お腹の痛みを訴えているときには、 「お腹の痛みは、頑張っている証拠だね」など、お子さんの努力を認めつつ、痛みを肯定的に捉えるような言葉を選ぶと良いでしょう。

学校生活との関わりも見逃せません。試験や発表会で腹痛が出やすい場合には、担任や保健室の先生とあらかじめ情報共有をし、配慮をお願いしておくことで、子どもが安心して学校生活を送れる環境が整います。もし家庭や学校のサポートだけでは改善が見られない場合は、専門機関の力を借りることも検討しましょう。小児心身症を扱う専門医や、心理カウンセラー、児童精神科などでは、身体と心の両面からアプローチする治療が可能です。子ども自身の感情を整理するカウンセリングや、家族へのサポートも併せて行われることがあります。

まとめ:お腹の痛みで悩む子どもと向き合うために大切なこと

お腹の痛みは、時に「こころ」の声です。子どもたちは言葉にできない不安やプレッシャーを、腹痛という形で訴えているのかもしれません。お子さんの腹痛は、単なる身体的な反応にとどまらず、心からのSOSであることもあります。焦らずに、できることから一歩ずつ。保護者にできることは、「そのつらさを受け止めること」そして、「一人で抱え込ませないこと」です。体のケアと心のケア、そして生活リズムの見直しを通じて、子どもが少しずつ「安心できる場所」と「前向きに乗り越える力」を身につけていけるよう、周囲の大人が支えていくことが大切です。

【参考文献・エビデンス】
※1:藤井智香子ら. 小児科で経験する過敏性腸症候群の特徴. Jpn J Psychosom Med. 61:57-63, 2021
※2:日本消化器病学会. 機能性消化管疾患診療ガイドライン2021-機能性ディスペプシア(FD)改訂第2版

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