子どもが不登校になったら?親ができることについて精神科医飯島先生にお伺いしました

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「子どもが学校に行きたくない」と言い出した。そんなとき、親はどうやって寄り添ってあげればいいんだろう。親としてできることは?また、自分自身がしんどくなっているときも、頑張りつづけなければいけないの?そんな悩みについて、不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック院長飯島慶郎先生からお話を伺いしました。

「学校へ行きたくない」

朝、布団から出てこない子どもの口からこの言葉を聞いたとき、心臓がきゅっとつかまれるような感覚を覚えた方は、多いのではないでしょうか。
私は島根県出雲市で、不登校を主訴とする子どもたちを専門に診ている精神科医です。クリニックには、行き渋りが始まったばかりの小学校低学年から、長く家にこもっている高校生まで、さまざまな段階の親子が訪れます。そして、ほぼすべての親御さんが、共通して同じ言葉を口にされます。

「あの朝、何と声をかけるのが正解だったのか、いまでもわかりません」

何と声をかけるのが「正しい」のか・・その問いの立て方そのものを少し変えるだけで、見えてくるものが違ってきます。
声かけをテクニックとして探している限り、たいてい空振りに終わります。子どもが「行きたくない」と言うとき、そこで起きている現象は、声のかけ方一つで動かせる種類のものではないからです。必要なのは、いま子どもの中で何が起きているのかを、少し違う角度から見直してみること。それだけです。

「行きたくない」は、わがままではなく、症状かもしれない

まず、現在の不登校の規模感を共有させてください。
文部科学省の最新の調査によれば、令和6年度の小中学校における不登校児童生徒数は353,970人。1,000人当たり38.6人で、過去最多を更新しました[1]。小学校だけで見ても約13万7千人で、過去10年で大幅に増加し続けています[1]。「うちの子だけ」と感じてしまう親御さんは多いのですが、現実にはどのクラスにも数人の不登校児童生徒がいる時代になっています。

その不登校児童生徒について教員が把握した事実として最も多かったのは、「学校生活に対してやる気が出ない等の相談があった」(30.1%)、次いで「生活リズムの不調に関する相談があった」(25.0%)、「不安・抑うつの相談があった」(24.3%)でした[1]。

私はこれを、はっきりと「症状」として捉えています。意欲の低下はうつ病の代表的な症状であり、漠然とした不安は不安障害の中核症状。生活リズムの乱れも、しばしばうつ状態や起立性調節障害の表れです。私のクリニックを不登校で受診する子どもの9割以上に、うつ病・不安障害・発達障害といった精神疾患が認められます。地域住民を対象とした海外の疫学研究でも、不安型と怠学型が混在する不登校児では88.2%に何らかの精神疾患が併存していたことが報告されています[2]。

不登校の背景には、多くの精神疾患が潜んでいる。

「学校に行きたくない」という言葉の裏側で、子ども自身もうまく説明できない「脳の不調」が起きている可能性が高い、ということです。
ちなみに、上記の文科省調査における「いじめ被害」の数字は、教員回答ではきわめて低く出ます。一方、文科省委託で行われた別の調査では、不登校児童生徒本人や保護者は「体調不良」「不安・抑うつ」「眠れない・起きられない」などの心身の不調について、教員の認識よりはるかに高い割合で回答していたことが報告されています[3]。「いじめ被害」「教職員からの叱責」についても本人・保護者と教員の認識に差があったことが示されており、学校側から見える景色と、子どもや家庭から見える景色には、想像以上のずれがあるということです。

子どもが「めんどくさい」「だるい」「なんとなく嫌」としか言えないのは、語彙の問題でもあります。「気分が落ち込む」「将来が不安だ」「人の視線が怖い」といった言葉を的確に使えるようになるのは、早くて高校生くらいから。だから子どもは、気分の不調を「お腹が痛い」「頭が痛い」という身体の言葉に置き換えて訴えてきます。
「行きたくない」は、わがままではありません。子どもなりの、ぎりぎりの自己報告です。

年齢ごとに「行きたくない」の意味は違う

不登校の背景にある困りごとは、年齢によって出やすいものが違います。これを知っておくと、子どもの言葉の解像度がぐっと上がります。

小学校低学年で目立つのは、分離不安です。親、特にお母さんから離れることへの強い不安。教室まで親についてきてほしがる、親が家にいないと泣く、夜になっても眠れない。「お母さんに何かあったらどうしよう」と本気で心配しているのです。発達段階としては乳幼児期に見られるもので、本来は学齢期には和らぐはずのものが、強く残ったり再燃したりするケースです。

小学校高学年から中学生になると、社交不安が前面に出てきます。授業中に当てられる、音読する、休み時間に友達の輪に入る・・他者から見られ、評価される場面で動悸や発汗が起こり、頭が真っ白になる。「恥ずかしがり屋」と片づけられがちですが、医学的には社交不安症という、はっきりとした疾患です。米国の青年期を対象とした全国調査(NCSーA)によれば、13〜18歳における不安障害は最も頻度の高い疾患群で、生涯有病率は31.9%にのぼり、女性に多いことが報告されています[4]。社交不安症もこの不安障害群に含まれ、決して珍しい状態ではありません。

中学生から高校生にかけて増えてくるのが、うつ病性の症状です。注意していただきたいのは、子どものうつ病が、大人のように「悲しい」「気分が沈む」という形では現れにくいということ。代わりに、イライラや怒りっぽさ、些細なことでのかんしゃく、強い自己否定、過眠、食欲の変化として表れます。「最近反抗期がひどい」と片づけられているケースの中に、相当数のうつ病が紛れ込んでいる・・これが、私の臨床実感です。

そして全年齢を通じて存在するのが、発達障害(ASDやADHD)の二次障害です。発達特性そのものは病気ではなく、生まれ持った脳機能のスタイル。ところが、その特性に学校環境が合わず、毎日が苦痛の連続になると、二次的にうつ病や不安障害を併発します。これも不登校の引き金として、見逃せない比率を占めます。

私のクリニックでも、「ずっと頑張り屋さんだったのに、ある日急に学校に行けなくなった」という子どもが、よくよく話を聞いていくと、実は感覚過敏や対人緊張をずっと我慢して隠してきた発達特性のお子さんだった、というケースは少なくありません。「真面目で優秀」と評価されてきた子ほど、限界まで我慢して、ある日ぱたりと動けなくなる。本人にも親にも、その経過が「突然」に見えるだけで、内側ではずっと前から負荷がかかっていたのです。
不登校は単一の現象ではありません。背景にある状態は、子どもごと、年齢ごとに違う。だからこそ、「うちの子の場合は何が起きているのか」を見極める作業が、回復の出発点になります。

環境の変化は、脳にとって想像以上のストレスになる

「小学校のほうがよかった」「クラス替えで仲のいい子と離れちゃった」進級や進学のタイミングでこんな言葉が出てくると、親としては「すぐ慣れるよ」と励ましたくなります。

ところが、子どもの脳にとって、環境変化は大人が思う以上に重い負荷になります。新しい教室、新しい先生、新しい人間関係。これらに適応するため、子どもの脳ではストレスホルモン(コルチゾール)の分泌や交感神経の緊張が、日々続いている状態です。表面上は元気そうに見えても、脳は戦闘モードを維持し続けています。

実際、未就学から学校教育への移行期に、子どものコルチゾール値が測定可能なレベルで上昇することは、これまでの縦断研究を整理した総説でも示されています[5]。重要なのは、調査対象が「学校に行きたくないと泣いている子」ではなく、「ごく普通に学校に通い始めた子」だという点。新しい環境に飛び込むこと自体が、脳にとっては相当な仕事なのです。

そして、ゴールデンウィークや夏休みなど、緊張がふっと緩む時期にエネルギーが枯れ、突然動けなくなる・・これが、毎年5月から6月にかけて私のクリニックで急増する典型的なパターンです。「楽しそうに通っていたのに、なぜ急に?」と保護者は驚かれますが、楽しそうだったからこそ、なのです。アクセルを踏みっぱなしで走ってきた車が、目的地に着いて止まろうとした瞬間、エンジンの方が壊れてしまう。そんなイメージに近い現象です。

精神医学の世界には、「荷下ろしうつ」という概念があります。重い荷物を担いで歩いているあいだは平気でも、荷物を下ろした瞬間にどっと疲れが押し寄せて立てなくなる、あの感覚です。子どもの五月病の正体は、まさにこれだと私は考えています。
「小学校のほうがよかった」という言葉を聞いたら、ただ過去を懐かしんでいるだけと片づけずに、脳が適応にエネルギーを使い果たしているサインかもしれない、そう受け止めてみてください。

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