心を動かされた映画やドラマ、本はありますか?今回はリソース・グローバル・プロフェッショナル・ジャパン株式会社コンサルタント 松本雅利さんのおすすめ作品をお伺いしました。
ロングベストセラーの映画化
黒柳徹子著の「窓ぎわのトットちゃん(講談社)」は40年以上前のベストセラーです。総発行部数は日本国内では800万部を突破。その反響からか、多くの映画監督が映画化の希望を出されたらしいのですが、黒柳さんはそれらをみんな断っていました。理由は黒柳さんがパンフレットの中で「本を読んでくれた皆さんの頭の中にある映像の方がよいもの」と思い、映画化の話は断られていたそうです。そして今回はアニメ。「若い方々がご覧になっても楽しめるかもしれないと思いました」と語られていますが、私も劇場に行ってみてそれを実感しました。
最近のアニメは3Dアニメが全盛です。まるで実写かと思えるほどの映像は大したものだと思います。でも、この「窓ぎわのトットちゃん」は3Dではありません。しかし、トットちゃんが生き生きと暮らしていた、戦前から戦中にかけての自由が丘の風景、東急大井町線の沿線風景が、緻密に再現されています。
※以下はネタバレとなるので、気になる方は鑑賞後にお読みください。
さりげなくも見事な描写
そしてもうひとつ。この映画の時代背景は日本が中国で戦争に入る頃から終戦直前までを舞台にしていますが、社会が戦時下になっていく様子を戦争とは関係のない描写で語っている点です。
・大井町線の改札にいたおじさんが女性に変わっていた(男性はみんな戦場へ)
・ペットで飼っていた犬の首輪だけが映し出される(ペットも供出されて食肉に)
・家にお母さんしかいない(お父さんは戦争へ)
・お弁当がなくなり、豆粒だけになる(配給で満足にお米が手に入らない)
・ファッショナブルだったお母さんがモンペを着ている
・防毒マスクをつけた子どもが遊んでいる
見落としがちになるこうしたところは、社会がトットちゃんの周りでも戦争の空気に覆われてきていることを感じさせます。劇中、大本営発表のラジオが流れるシーン、兵隊さんを送り出すシーンもありますが、むしろ、こういった日常のさりげない風景の変化で、戦争を語らせているのは上手いと思います。特にトットちゃんが可愛がっていた愛犬の首輪だけがアップのシーンは、一瞬「あれっ」と思ってしまいました。
そんな戦争に社会が染まっていく中でも、トットちゃんは一生懸命、自分らしく生きようとします。トットちゃんを暖かく見守るトモエ学園と小林校長。そして同級生たち。「ありのままの自分でいい」という教育理念のトモエ学園でのびのびと成長していく様子を、3Dでない普通のアニメで描いたトットちゃんワールドは、この映画を見た人に、それぞれのトモエ学園、トットちゃんを脳裏に焼きつけるのではないかと思います。戦争が理解できる年頃のお子さんと観られた後、日常の影を落とす戦争の影響や、そんな中で自分らしく生き生きと過ごしていくトットちゃんについて、話してみてはいかがでしょうか?
執筆者
松本雅利
リソース・グローバル・プロフェッショナル・ジャパン株式会社 コンサルタント
経歴
外資系企業での勤務が長く、さまざまな国の日本法人での経理会計実務を経験、現在はその経理会計キャリアの経験を活かしたコンサルタントとして活躍中。一方、大の映画好き。社会人スタートは映画会社の営業だった事実はそれを裏打ちする。年間鑑賞本数は2023年は70本。複数回見た数を入れるとのべ100本近くになる。見た映画、見る映画の種類はバラエティに富む。アメコミ映画、ミュージカル、日本映画、韓国映画と幅広い。ちなみに2023年に印象に残った映画は、米国マーベル映画「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME3」と日本映画「ほつれる」、そしてケイト・ブランシェット主演「バーナデットママは行方不明」。
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