
デジタル機器の影響を考える
現代の子どもたちにとって、スマートフォンやタブレット、ゲーム機は生活の一部となっています。しかし、これらのデジタル機器の使い方によっては、睡眠や体調に大きな影響を与えることが分かっています。
子どもの脳はデジタル機器の影響を受けやすい
まず理解していただきたいのは、子どもの睡眠はデジタル機器の影響を大人より圧倒的に受けやすいということです。発達途上にある子どもの脳は、ブルーライトや刺激的なコンテンツに対して、大人以上に敏感に反応します。大人が「このくらいなら大丈夫」と思うレベルでも、子どもにとっては睡眠を大きく妨げる要因となることがあるのです。
例えば、大人が寝る前に30分スマホを見ても比較的すぐに眠れるかもしれませんが、子どもの場合、同じ30分でも脳の興奮が収まるまでに何時間もかかることがあります。この違いを理解せずに、大人の感覚で「少しくらいなら」と許してしまうと、深刻な睡眠障害につながる可能性があります。
スマホを見ながらの寝落ちは絶対にNG
特に避けていただきたいのが「スマホを見ながら寝落ちする」習慣です。ブルーライトによる覚醒作用に加え、寝落ちすることで睡眠時間をコントロールできなくなり、慢性的な睡眠不足に陥ります。本来なら午後10時に寝るべきところが午前2時になってしまえば、朝起きられないのは当然です。
対策は明確です。親が率先して「夕食後はスマホをリビングの充電ステーションに置く」「寝室にはデジタル機器を持ち込まない」といった家族全員のルールを作ることです。代わりに、寝る前の30分は読書タイムにする、オーディオブックを聴く、親子で今日の出来事を話すなど、心が落ち着く活動を取り入れてみましょう。「スマホは寝室に持ち込まないで」と言いながら、親がベッドでスマホを見ていては説得力がありません。子どもは親の言葉よりも行動を見て学ぶのです。
起立性調節障害の可能性
朝起きられない、立ちくらみがする、午前中は調子が悪いが午後になると元気になる―こうした症状がある場合、起立性調節障害(OD)の可能性を考える必要があります。
起立性調節障害は、自律神経の調節がうまくいかないことで起こる病気です。思春期の子どもに多く見られ、朝の起床困難、立ちくらみ、頭痛、倦怠感などが主な症状となります。具体的には、「起き上がろうとすると目の前が真っ白になる」「朝は顔色が悪く、唇の色も薄い」「起床後しばらくは会話もままならない」といった状態が見られることがあります。特徴的なのは、午後になると症状が改善し、夕方から夜にかけては元気になることです。
この病気は「怠け」や「仮病」ではなく、れっきとした身体の病気です。診断には、起立試験などの検査が必要となりますので、症状が続く場合は小児科や小児循環器科を受診することをお勧めします。
起立性調節障害と診断された場合、薬物療法に加えて、生活指導が重要となります。規則正しい生活リズムを保つこと、適度な運動を行うこと、水分や塩分を十分に摂取することなどが症状の改善につながります。また、学校と連携して、遅刻や早退を認めてもらうなど、お子さんの状態に合わせた配慮を求めることも必要でしょう。
うつ病・うつ状態の見極め
朝の体調不良の背景に、うつ病やうつ状態が隠れていることもあります。子どものうつ病は、大人とは異なる症状を示すことが多く、見逃されやすいという特徴があります。
子どものうつ病では、抑うつ気分よりも、イライラや怒りっぽさが目立つことがあります。例えば、些細なことで激しく怒る、兄弟に当たり散らす、物を投げるといった行動が増えることがあります。また、「どうせ自分なんて」「何をやってもダメだ」といった否定的な発言が増えることも、重要なサインです。頭痛や腹痛などの身体症状として現れることも多く、「学校に行きたくない」という直接的な表現ではなく、「お腹が痛い」「頭が痛い」といった身体の不調として訴えることがあるのです。
その他にも、以前は楽しんでいた活動への興味の喪失、友達との交流を避ける、成績の低下、食欲の変化、睡眠の問題などが見られることがあります。特に、「死にたい」「消えてしまいたい」といった発言があった場合は、緊急性が高いため、すぐに専門医を受診する必要があります。
うつ病・うつ状態の治療には、環境調整、心理療法、場合によっては薬物療法が必要となります。重要なのは、早期に適切な治療を開始することです。症状が長引くほど、回復に時間がかかることが多いため、気になる症状がある場合は、早めに児童精神科や心療内科を受診することをお勧めします。
医療機関を受診するタイミング
症状が2週間以上続く場合、日常生活に支障をきたしている場合、身体症状が強い場合は、医療機関の受診を検討してください。最初は小児科を受診し、必要に応じて児童精神科や心療内科への紹介を受けるという流れが一般的です。
受診の際は、症状の経過、学校での様子、家庭での様子、睡眠や食事の状況などを整理しておくと、診察がスムーズに進みます。「精神科」という言葉に抵抗を感じる場合は、まずは小児科の「思春期外来」や「心身症外来」を探してみるのも一つの方法です。最近では、多くの小児科医が心の問題にも対応できるようになっています。
特に睡眠に関しては、就寝時間、入眠までの時間、夜間覚醒の有無、起床時間、日中の眠気などを2週間程度記録しておくと、診断の助けになります。
おわりに
朝起きられない、登校前に体調不良を訴えるお子さんへの対応は、一朝一夕にはいきません。しかし、今回ご紹介した睡眠衛生の改善、デジタル機器との付き合い方の見直し、そして必要に応じた医療機関の受診により、多くの場合、状況は改善していきます。
筆者は心療内科医として、デジタル機器による子どもの睡眠障害を数多く経験してきました。スマートフォンやタブレット、ゲーム機との接し方を変えるだけで、朝の起床困難が改善し、学校への行きしぶりがなくなったケースを何度も目にしています。デジタル機器が子どもの睡眠に及ぼす影響は、いくら強調してもしすぎることはありません。現代の子育てにおいて、これは避けて通れない重要な課題なのです。
そしてお子さんの小さな変化を見逃さず、焦らず一歩一歩前に進んでいくことが大切です。親御さんが手本となり、家族全員で新しい習慣を作っていく過程は、きっと親子の絆を深める機会にもなるでしょう。
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