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子どものスマホ依存を予防する方法と対策の一つ、声かけの具体的な方法について、もう少し詳しく見ていきましょう。
効果的な声かけ方~実例から学ぶコミュニケーションのコツ~
「先生、怒ってばかりで・・・」
「注意すると、逆に反抗的になって・・・」
外来でよく耳にする保護者の方々のお悩みです。先日も、中学2年生の男の子のお母さんが、「どう言葉をかけたらいいのか、もう分からなくなってきました」と話されていました。
確かに、子どもにスマホの使い方について注意することは、とても難しいものです。でも、ちょっとした言葉の選び方で、子どもの反応は大きく変わってきます。実際の診療現場で効果があった声かけを、具体的な場面ごとにご紹介していきましょう。
■スマホを見続けている場面で
【避けたい声かけ】
「また、スマホばっかり!」
「いい加減にしなさい!」
「依存症になるわよ!」
こういった言葉は、子どもの心の扉を閉ざしてしまいがちです。では、どう声をかければいいのでしょうか?
【効果的な声かけ】
「その動画、面白そうだね。どんな内容なの?」→ まずは子どもの興味に関心を示す
「あと10分したら、一緒に〇〇しない?」→ 具体的な時間と代替案を提示
「ずっと座ってると体が凝るよ。少し体動かさない?」→ 健康面を気遣う形で提案
■ルールを決めるとき
【避けたい声かけ】
「今日から1時間以内!絶対守りなさい!」
「守れないなら取り上げる!」
「他の子はちゃんとできているのに」
【効果的な声かけ】
「どのくらいなら守れそう?一緒に考えてみよう」→ 子どもと一緒にルールを作る
「まずは夕食の時間だけ、チャレンジしてみない?」→ 小さな目標から始める
「昨日より30分減らせたね。すごいじゃない」→ 小さな進歩を認める
■困った行動が続くとき
【避けたい声かけ】
「あなたの将来が心配」
「こんなんじゃダメな子になる」
「もう知らない!」
【効果的な声かけ】
「何か困っていることある?話してくれると嬉しいな」→ 背景にある悩みに目を向ける
「一緒に良い使い方を考えていこうね」→ 寄り添う姿勢を示す
「スマホの時間が減ったら、〇〇に行こうか」→ 具体的な動機づけを提案
大切なのは、その場の感情で言葉を投げかけるのではなく、一呼吸置いて、建設的な声かけを心がけることです。
しかし、こういった工夫を重ねても、なかなか改善が見られないケースもあります。そんなとき、どんなサインに注目して、専門家に相談すべきなのでしょうか?次のセクションでは、その判断のポイントについてお話ししていきます。
専門家に相談したほうがいいかも?~見逃せない4つのサイン~
先日、こんなケースがありました。
中学1年生の女の子のお母さんが「もっと早く来院すればよかった」とため息をつかれました。夜中までSNSを見続け、朝起きられない、学校に行けない・・・その状態が2ヶ月も続いていたそうです。
でも、いつ専門家に相談すればいいのか、判断に迷われる方も多いと思います。私の臨床経験から、特に注意が必要なサインをお伝えします。
【ケース1】:睡眠の乱れが続くとき
〇夜中の2時、3時まで起きている
〇朝なかなか起きられない
〇昼夜逆転の生活が続く
〇「あと5分」が2時間に・・・
ある高校生は「寝ようと思っても、スマホを置けない。でも朝はつらくて・・・」と話していました。このように睡眠の乱れが2週間以上続くようであれば、要注意です。
【ケース2】:学校や日常生活への影響が出始めたとき
〇テストの点数が急に下がった
〇宿題を全くしなくなった
〇部活を休みがち
〇家族との約束を守れない
「成績が下がったのは、たまたまかも・・・」と様子を見ていると、事態が深刻化することもあります。変化に気づいたら、早めの相談をお勧めします。
【ケース3】:こんな行動が見られるとき
〇スマホを取り上げると激しく怒る
〇「あと少し」が守れない
〇食事中もスマホが手放せない
〇隠れて深夜に使用
〇「目が疲れる」「頭が痛い」と訴えるのに、スマホは止められない
「ちょっと使いすぎかな」から「やめたくてもやめられない」状態に変化していく・・・。これは依存の重要なサインかもしれません。
【ケース4】:心の変化が気になるとき
〇些細なことでイライラ
〇投げやりな態度が目立つ
〇表情が乏しくなった
〇家族との会話を避ける
〇趣味や運動をしなくなった
〇「どうせ・・・」という言葉が増えた
このような変化は、うつ状態のサインかもしれません。スマホ依存とメンタルヘルスの問題は、密接に関連していることがわかっています。
■相談する前に準備しておくと良いこと
*いつ頃から変化が出てきたか
*1日のスマホ使用時間
*睡眠時間の変化
*学校での様子
*ご家庭での対策とその結果
これらをメモしておくと、より具体的なアドバイスを受けることができます。
大切なのは、「様子を見よう」と長引かせすぎないこと。特に上記のサインが複数重なる場合は、できるだけ早めに相談することをお勧めします。治療や支援は、早ければ早いほど効果が出やすいです。
最後に、これまでお話ししてきた内容を踏まえて、今日から始められる具体的な対策についてまとめてみましょう。
最後に~明日からできる、具体的な一歩~
外来で出会う多くの親子さんを見ていると、実感することがあります。スマホとの付き合い方は、一朝一夕には変えられない。でも、小さな一歩を積み重ねることで、必ず変化は生まれるということです。
先日、半年前に来院された中学2年生の男の子のお母さんから、うれしい報告がありました。
「最初は無理かもと思いました。でも、少しずつ変わってきて・・・今では自分から『宿題終わらせてからにする』って言えるようになったんです」
確かに、スマホは現代の子どもたちにとって、もはや切り離せないものかもしれません。その影響の大きさは、これまでお話ししてきた研究結果からも明らかです。子どもの脳への影響、睡眠への影響、学業への影響・・・。どれも決して軽視できない問題です。
でも、だからこそ、以下のような具体的な一歩を、今日から始めてみませんか?
■今日からできること
*お子さんの好きな動画やゲームに、まずは興味を持ってみる
*食事の時間だけは、家族全員でスマホを離れてみる
*寝室には充電器を置かない
*休日の午後、30分だけ一緒に外出してみる
■今週から始めること
*お子さんと一緒にルールを考える時間を作る
*図書館や公園など、新しい居場所を探してみる
*家族で「スマホ休憩タイム」を決める
■ 今月の目標にすること
*ご家族なりの「適度な使用時間」を見つける
*スマホ以外の楽しみを、少しずつ増やしていく
*困ったときは、一人で抱え込まず相談する
私が出会ってきた多くの親子さんも、最初は不安を抱えていました。でも、諦めずに少しずつ取り組んでこられた方々は、必ず変化を実感されています。
子どもたちの成長にとって、今が大切な時期だからこそ、スマホとの上手な付き合い方を、一緒に見つけていきたいですね。
そして最後に、繰り返しになりますが、一人で悩みすぎないでください。困ったときは、ぜひ専門家に相談することをお勧めします。お子さんの健やかな成長のために、私たち専門家も全力でサポートさせていただきます。
参考文献
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[7] Mendez, I., et al. (2024). Neuroscience & Biobehavioral Reviews.
[8] Li, W., et al. (2024). Advanced Science.
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[10] Hong, W., et al. (2021). Journal of Korean Medical Science.
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[14] Martínez-Pastor, E., et al. (2019). Mediterranean Journal of Communication.
[15] Oh, J. H., et al. (2022). Information, Communication & Society.
[16] Parlak, S., et al. (2023). Medical Science and Discovery.
[17] Rękas, K., & Burzyńska, J. (2024). medRxiv.
[執筆者]
飯島慶郎先生
不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック 院長
精神科医・総合診療医・漢方医・臨床心理士。
島根医科大学医学部医学科卒業後、同大学医学部附属病院第三内科、三重大学医学部付属病院総合診療科などを経て、2018年、不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニックを開院。
多くの不登校児童生徒を医療の面から支えている。島根大学医学部精神科教室にも所属
不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック
https://sites.google.com/view/izumo-iijima-clinic