自傷行為を繰り返す子ども。その心理は何からきているの?大人として自傷行為をする子ども達に関わっていくとき、どういう心構えで接するのがいい?そんな悩みについて、今回は大人の漢方・心療内科出雲いいじまクリニック院長飯島慶郎先生からお話をお伺いしました。

子どもの腕に、ためらいながらつけた傷を見つけてしまう。その瞬間、多くの親御さんは頭が真っ白になります。「どうして」「私の育て方が悪かったのだろうか」「今すぐやめさせなければ」。次々にわいてくる問いと不安。まずお伝えしたいのは、慌てて問い詰めたり叱ったりする前に、一呼吸だけ、置いてほしいということです。
私は不登校専門のクリニックで、自分を傷つけてしまう子どもたちを日々診ています。その経験と、国内外の研究からお話しできることを、順を追ってお伝えします。読み終えたとき、少しでも肩の力が抜けて、明日からのお子さんへの接し方が変わっていたら嬉しく思います。
「かまってほしいから」ではありません
自傷行為とは、死のうとする意図なしに、わざと自分の体を傷つけることをいいます。リストカットがよく知られていますが、体を叩く、爪で強く引っかくなども含まれます。医学では「非自殺性自傷」と呼びますが、本稿では「自傷」と呼びます。
なお、市販薬などを一度に大量に飲む過量服薬(オーバードーズ)は、医学の定義上は自傷とは別に扱われます。ただ、つらさをしのぐために行われるという点では地続きで、思春期では決してまれではありません。傷が残らないぶん気づかれにくいので、頭の片隅に置いておいていただければと思います。
多くの親御さんが「気を引きたいだけでは」「大げさにしているのでは」と考えます。けれども診察室で子どもたちの話を聞くと、まるで違う姿が見えてきます。「切ると、ざわざわした気持ちがすっと静まる」「頭のなかがぐちゃぐちゃで、傷つけるとやっと楽になる」。つらさから逃れる方法が他に見つからず、苦しさを鎮めるための、いわば自己流の応急処置として自傷という方法にゆきついている子がとても多いのです[1]。
これは気のせいや思い込みではありません。実際、自傷をする人の多くは、苦しい感情を鎮める目的で行っていることが研究で示されています[2]。自傷を繰り返す成人女性を対象にした小さな研究では、自傷の直後に唾液中のβ(ベータ)エンドルフィン、体が自分でつくる、モルヒネに似た働きをする物質が増えていたという予備的な報告もあります[3]。それでも、一度この方法を覚えるとやめにくくなることは、支援の現場で繰り返し指摘されてきました[1]。
ただし、その効果がとても短いことも、わかっています。自傷を繰り返す思春期の女子を一時間ごとに調べた研究では、自傷のあと一時間の時点でかえって気分が沈み、母親を近くに感じる気持ちまで薄れていました。以前から報告されてきた「楽になる」効果は、あったとしてもごく短い時間にとどまると考えられています[4]。痛み止めがすぐ切れて、また手が伸びる。そのくり返しのなかで、奥にあるつらさは手つかずのまま、傷だけが増えていきます。
こうしたしくみが分かると、大人の関わり方も自然に変わってきます。自傷を打ち明けた子に「そんなことしてはだめ」と頭ごなしに迫ると、その子は「この苦しさは誰にもわかってもらえない」とかえって孤立します。自傷は、本人にとっては数少ない「効いてしまう」対処法です。それだけに、代わりのはけ口を用意しないまま「やめなさい」と禁じるだけでは、その数少ない支えを取り上げてしまうことになりかねません。
背景に隠れているもの
「うちの子にかぎって、なぜ」。そう思われるのは自然なことです。けれども自傷は、たった一つの原因から起きるものではありません。いくつものつらさが重なった末に、いちばん目に見えるかたちで表に出てくる、それが自傷です。
いじめ、つらい体験の積み重なり、心や体の不調・・そうしたものが自傷の背景にあることは、多くの研究で示されています[1][5]。家庭のなかで対立が多いことも、これに加わります[10]。「消えたいくらいつらい」という気持ちを言葉にできないとき、体を傷つけることがその代わりになってしまうのです。
見落とされやすいのは、生まれ持った特性との関わりです。発達の特性、たとえば自閉スペクトラム症(ASD)のある子は、自傷のリスクが高いことが知られています。子どもから大人までを対象にした31の研究をまとめたメタ解析では、ASDのある人が自分を傷つけるリスクは、ASDのない人のおよそ3倍と報告されています[6]。
これは「発達障害だから自傷する」という単純な話ではありません。感覚が過敏で、光や音がふつうの子より強い刺激になる。気持ちを言葉にするのが苦手で、うまく助けを求められない。感情の波を自分で鎮めにくい。そうした特性が重なった子が、自傷にたどりつくことがあります[7]。そこに、まわりから理解されず叱られたり浮いたりする経験が積み重なれば、なおさらです。背景に特性があるかもしれないと気づくことは、その子を責めるためではなく、その子に合った支え方を見つける第一歩になります。
年代ごとの傾向を知っておく
もう一つ知っておくと役に立つのが、年齢による違いです。
海外で十代を追跡した調査では、自傷は中学生にあたる年代にはすでに広く見られます。女の子では15歳ごろにいちばん多くなり、その後はゆるやかに減っていきます[8]。日本の中高生を対象にした国内の調査では、およそ10人に1人が、刃物で自分の体を切った経験があると答えています[9]。決して特別な子だけに起きることではありません。
一方で、もっと幼い年齢でも起こりうることは、あまり知られていません。9歳や10歳の子でも自分を傷つけることは稀ではなく、その背景には家庭内で対立が多いことや、親の目が届きにくい状況が関わっているという大規模な調査があります[10]。この調査でさらに重いのは、子ども自身が答えた自傷や「消えたい」という気持ちの多くを、養育者が知らなかった、あるいは把握していなかった、という結果です[10]。「まだ小さいから大丈夫」というより、「気づけていないだけかもしれない」と考えたほうが、実情に近いのかもしれません。
ただし、一つ区別しておきたいことがあります。ごく幼い子が頭を壁に打ちつける、自分の手を噛む、といった行動は、思春期のリストカットとは背景が異なります[7]。
言葉でうまく気持ちを伝えられない子が、不快さや助けを求める気持ちを体で表している場合が多く、対応も別に考える必要があります。同じ「自分を傷つける」でも、年齢や特性によって意味が違います。そこを見きわめるためにも、専門家に見てもらうことが役に立ちます。
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