子どもが突然学校に行きたくないと言い出したら?精神科医飯島先生にお伺いしました

アイコンイメージ

花粉症は「鼻」だけの話ではなかった

春の脳への負荷は体内時計だけにとどまりません。もう一つ、意外な要因があります。花粉です。
お子さんにアレルギー性鼻炎があるなら、鼻水やくしゃみだけを心配していればいいわけではありません。花粉への曝露でアレルギー性の炎症反応が起こると、炎症性サイトカインという物質が増え、IDOという酵素を活性化させます。この酵素がセロトニンの原料であるトリプトファンの分解を促し、脳で使えるセロトニンの量を減らしてしまいます[3][4]。

季節性アレルギー性鼻炎の患者計102名を調べたイタリアの研究(Ciprandi et al., 2011)[3]では、花粉シーズン中の患者はシーズン外の患者よりセロトニン血清濃度が有意に低く、セロトニン濃度と生活の質のあいだに強い正の相関がありました。予備的な研究ではありますが、「花粉症→セロトニン低下→だるさ・無気力」という経路の存在を示す興味深いデータです。

花粉症でぐずぐずしている子どもの脳のなかで、鼻の奥の炎症がセロトニンを減らし、倦怠感や集中力の低下を静かに引き起こしている。子どものアレルギー性鼻炎の有病率は数十%に達するとも言われており、クラスに数人どころではない計算ですから、「たかが鼻水」とあなどれません。花粉シーズンにしっかり治療しておくことが、お子さんの春のコンディションを守る一手になります。

「二重負荷」が五月病の正体

体内時計の急激な再調整、花粉によるセロトニンの低下。春の子どもの脳は、新学期が始まる前からすでに足腰が弱った状態にあります。
いわば、体力が落ちているところに重い荷物を背負わされるようなものです。そこに日本特有の4月新年度という社会的ストレスが重なり、子どもは過剰適応を強いられる。数週間にわたって脳のアクセルを踏み続けたあと、ゴールデンウィークで緊張が解けた瞬間、荷下ろしうつとして不調が一気に顔を出します。

生物学的な揺らぎと社会的なストレスの「二重負荷」。これが五月病の正体です。どちらか一方なら乗り越えられても、両方が重なればお子さんの脳のキャパシティを超えてしまう。五月病が「気合いで乗り切れない」のには、ちゃんと理由があります。

長引くときは「治療で良くなる何か」が隠れているサイン

五月病の多くは一過性で、しばらくすれば落ち着きます。
ただ、なかには症状が2週間、3週間と長引き、そのまま学校に行けなくなるケースもあります。文部科学省の最新調査(令和6年度)[5]によれば、小中学校の不登校児童生徒数は35万3,970人で過去最多、12年連続の増加です。中学校では約15人に1人。1クラスに2人程度が不登校という計算になります。

私のクリニックでは、不登校を主訴に受診する患児の9割以上に何らかの精神疾患を認めます。うつ病、不安障害、発達障害。五月病のように始まったものの裏側に、適切な治療で改善できる疾患が見つかることは珍しくありません。
「うちの子、ちょっと長引いてるな」と感じたら、怖がる必要はありません。「手当てすれば良くなる何かがあるかもしれない」そう考えてみてください。

家庭でできること、相談するタイミング

日常のなかでできる工夫をいくつかお伝えします。
朝の光を浴びること。体内時計のリセットにはこれがいちばん効きます。起きたらカーテンを開ける、余裕があれば10分の散歩をする。それだけでメラトニンからセロトニンへの切り替えがスムーズになります。
睡眠リズムを崩さないことも大切です。連休中の夜更かしは体内時計のずれを広げてしまいます。休日でも起床時間を平日から1時間以上ずらさないのが目安です。

「頑張りすぎ」のサインにも目を配ってください。荷下ろしうつの厄介さは、頑張っている最中に症状が見えにくいところにあります。帰宅後にぐったりする、休日になると極端に動かなくなる、些細なことで泣く。外では元気そうに振る舞っている子ほど、家での小さな変化を丁寧に見てあげてほしいと思います。
花粉症があるお子さんは、シーズン中の治療を徹底してください。鼻だけでなく脳のコンディションにも関わる話は先ほどしたとおりです。

ここまでが、日常の工夫の範囲です。
そのうえで、次のような状態が続くようであれば、かかりつけの小児科や児童精神科、心療内科への相談を考えてみてください。

○気分の落ち込みや意欲の低下が2週間以上続いている
○朝起き上がれない日が続いている
○食欲が極端に変わった(減った、または増えた)
○腹痛や頭痛などの体の不調を繰り返す
○「死にたい」「消えたい」という言葉が出てきた
お住まいの地域の教育相談センターやスクールカウンセラーも、最初の相談先として頼りになります。

おわりに

五月病は、怠けでも甘えでもありません。
春の急激な日照変化が体内時計を揺さぶり、花粉がセロトニンを削る。そこに日本の4月新年度という社会的ストレスが重なったとき、脳と体が悲鳴を上げる。その悲鳴が荷下ろしうつという形で現れる、これが五月病の科学的な姿です。

多くはしばらくすれば落ち着きます。けれど、もし長引くようであれば、早めに専門家を頼ってください。不登校の背景には多くの精神疾患が潜んでいますが、適切な診断と治療があれば子どもは回復できます。
お子さんの変化にいちばん気づけるのは、毎日そばにいるあなたです。「あれ、いつもとちょっと違うな」。その小さな気づきが、お子さんの春を守ります。

参考文献

[1]Parent S, Lupien S, Herba CM, Dupéré V, Gunnar MR, Séguin JR. Children’s cortisol response to the transition from preschool to formal schooling: A review. Psychoneuroendocrinology. 2019;99:196-205.
[2]Hadlow NC, et al. The effects of season, daylight saving and time of sunrise on serum cortisol in a large population. Chronobiol Int. 2014;31(2):243-251.
[3]Ciprandi G, et al. Serotonin in allergic rhinitis: a possible role for behavioural symptoms. Iran J Allergy Asthma Immunol. 2011;10(3):183-188.
[4]Felger JC, Lotrich FE. Inflammatory Cytokines in Depression: Neurobiological Mechanisms and Therapeutic Implications. Neuroscience. 2013;246:199-229.
[5]文部科学省. 令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要. 2025年10月29日公表.

※記事執筆の際に、生成AIを使用しています

この記事をSHAREする

この記事をSHAREする