服が肌に触れるのが嫌、掃除機の音に耐えられない、部屋の照明を嫌う・・・そう言って泣き出す我が子。こんなときはどうすればいいんだろう。どんな風に向き合えばいか分からない。そんな悩みについて、今回は大人の漢方・心療内科出雲いいじまクリニック院長の飯島慶郎先生からお話をお伺いしました。

洗濯タグ一枚で泣き叫ぶ子ども
朝、着替えの時間になると、決まって泣き出す子がいます。「このシャツのタグがチクチクする」「靴下の縫い目が痛い」。親としては正直、面倒だと感じることもあるでしょう。「またか」「わがまま言わないの」。そう言いたくなる気持ちは、痛いほどわかります。
ですが、少し立ち止まって考えてみてください。もしその子にとって、洗濯タグが本当に画鋲を貼り付けられたような痛みだったとしたら?掃除機の音がライブ会場のスピーカーの前にいるような轟音だったとしたら?
決して比喩ではありません。実際、感覚過敏の子どもたちが体験している世界は、私たちが想像しているよりも、はるかに強烈で、はるかに逃げ場のないものなのです。
私は精神科医として、また臨床心理士・公認心理師として、日々多くのお子さんとご家族にお会いしています。その中で強く感じるのは、「感覚過敏」という現象が、いまだに「神経質」「性格の問題」「甘やかされた結果」と誤解されがちだということです。今回は、この誤解を科学の力で解いてみたいと思います。
感覚過敏は「気の持ちよう」ではない。脳の情報処理の話
感覚過敏(Sensory Over-Responsivity)とは、音、光、匂い、味、肌触りといった日常の感覚刺激に対して、通常よりも強く反応してしまう状態を指します。ここで大切なのは、これが「本人の感じ方」の問題ではないという点です。脳における感覚情報の処理そのものが違っているのです。
米国のGreenらは、高機能自閉スペクトラム症の若者たちの脳をfMRI(機能的MRI・脳の活動を画像化する検査)で観察し、少し不快な聴覚・視覚刺激に対して、感覚を最初に受けとる脳の部位や扁桃体(情動反応に関わる部位)などの活動が、定型発達の若者よりも顕著に強まっていることを示しました[1]。つまり、少なくともASDのある子どもでは、同じ刺激を受けても脳内で文字通り「増幅」されて処理されていることが、画像研究によって裏づけられているのです。
いわば、同じ音量でも、ボリュームつまみが最初から最大付近にセットされているイメージに近い現象です。
感覚過敏の主な種類を整理しておきましょう。
○聴覚過敏
掃除機、ハンドドライヤー、赤ちゃんの泣き声、教室のざわめきを極端に嫌がる
○触覚過敏
服のタグ、特定の素材、髪を洗われること、歯磨きが苦手
○視覚過敏
蛍光灯、日光、点滅する光を眩しがる
○嗅覚過敏
給食や特定の柔軟剤の匂いに強く反応する
○味覚・食感の過敏
偏食が極端で、特定の食感を受け付けない
○バランス感覚・体の位置感覚の過敏
ブランコや遊具が怖い、体育の特定の動作を極端に嫌がる
こうした症状のいくつかに、思い当たる節はないでしょうか。
発達障害との関係:感覚過敏はサインになる
「感覚過敏は発達障害と関係あるのですか?」。診察室でよく受ける質問です。答えは「深く関係している」です。
2013年に改訂された精神疾患の国際的な診断基準であるDSMー5では、自閉スペクトラム症(ASD)の診断基準に正式に「感覚刺激に対する過敏性または鈍麻性」が組み入れられました[2]。つまり感覚過敏は、ASDを診断するうえで中核となる特性の一つとして、国際的に認められています。
Ben-Sassonらの大規模な複数の研究をまとめた解析では、ASDの子どもでは、定型発達児と比べて感覚症状が有意に多く、とくに6〜9歳でその差が最大となることが示されています[3]。ASDだけではありません。注意欠如・多動症(ADHD)の子どもにも、感覚処理の問題が定型発達児より高頻度で認められることが、複数の研究をまとめた総説で報告されています[4]。
一方で、発達障害と診断されないけれど感覚が敏感というお子さんもいます。ここで登場するのが「HSC(Highly Sensitive Child:ひといちばい敏感な子)」という概念です。心理学者エレイン・アーロン博士が提唱した考え方で[5]、博士は著書などで、およそ5人に1人がこの気質を持つと推定しています。
HSCは病気や障害ではなく、あくまで生まれ持った性格特性です。ASDと違い、対人コミュニケーションの根本的な困難や強い「こだわり」は伴いません。ただし外から見ると似た行動を取ることがあり、区別は専門家でも慎重な観察を要します。
そしてもう一つ、忘れてはいけないのが後天的な感覚過敏です。臨床の現場では、強いストレスや不安、うつ状態、起立性調節障害(立ちくらみや起床困難を伴う自律神経の不調)などをきっかけに、それまで平気だった刺激に急に耐えられなくなる例にしばしば出会います。たとえば「最近急に音を嫌がるようになった」というときは、生まれつきの特性というより、心身の不調のサインである可能性を念頭に置く必要があります。
とりわけ、あまり知られていない重要な原因が片頭痛です。片頭痛というと「ズキンズキンと痛む頭痛」ばかりが注目されますが、国際頭痛分類(ICHDー3)では、光過敏と音過敏が、悪心・嘔吐と並ぶ随伴症状として片頭痛の診断基準に組み込まれています[6]。頭痛の最中に「電気を消して」「静かにして」と訴えるのは、光過敏・音過敏という片頭痛の中核的な症状の表れなのです。
さらに近年の神経科学的研究では、片頭痛の患者は頭痛発作のときだけでなく、頭痛のない発作と発作のあいだ(発作間欠期)にも、光・音・匂いに対する感覚過敏が持続することが、脳画像・電気生理学的研究の総合レビューで示されています[7]。つまり、頭痛のない普段の生活でも、刺激を受け止める限界ライン(閾値)が低いまま続いている、片頭痛とは、そういう病気なのです。「頭を痛がることが多く、光や音を極端に嫌がる」お子さんについては、感覚過敏の背景に片頭痛が隠れている可能性を念頭に置く必要があります。幸い、片頭痛は適切に診断・治療されれば、頭痛だけでなく感覚過敏を含む症状全体の改善が期待できる疾患です。
![ママ広場 [mamahiroba]](https://mamahiroba.com/wp-content/themes/mamahiroba-2024/images/common/logo.webp)
