香水や柔軟剤のにおいが辛い・・・。その不調、化学物質過敏症のサインかも?今回は、化学物質過敏症の症状や要因、似た症状を持つ他の病気の可能性、具体的な対策法や受診先の選び方まで、精神科医であり臨床心理士・公認心理師でもある出雲いいじまクリニック院長の飯島慶郎先生に分かりやすく解説していただきました。

「柔軟剤の香りで頭が痛くなる」「芳香剤の近くにいると気持ちが悪い」。家族がこうした不調を訴え、「もしかして化学物質過敏症では」と心配される方が増えています。
化学物質過敏症は、確かに存在する病態です。しかし、一般に思われているよりもずっと広い概念で、症状の種類や程度も人によって大きく異なります。「香りに敏感」というだけで、すぐに化学物質過敏症だと決めつけることはできません。
この記事では、化学物質過敏症とはどのような病態なのか、その全体像を丁寧に押さえたうえで、家庭でできる対策や受診先の選び方について、片頭痛などほかの病気との違いも含めて解説します。
化学物質過敏症の全体像
化学物質過敏症は、生活環境に存在するごく低濃度の化学物質に反応し、さまざまな症状が現れる後天性の病態です。1987年に米国の医師カレンによって定義された、比較的新しい病態概念です。
国際的にはMCS(Multiple Chemical Sensitivity)と呼ばれていますが、近年では「特発性環境不耐症(IEI)」「化学物質不耐症(CI)」「毒物誘発性耐性喪失(TILT)」など、いくつかの名称が並存しています。呼び方が定まっていないこと自体、この病態の定義や捉え方が、まだ十分に定まっていないことの表れでもあります。
日本で行われたウェブ調査(成人7,245人)では、質問票による判定で、回答者の4.4〜7.5%が化学物質不耐症の疑いに該当しました。決して珍しい状態ではありません。
化学物質過敏症を理解するうえで重要なのは、症状の現れ方に非常に幅があるということです。軽い不調にとどまる人もいれば、日常生活や仕事、外出が難しくなり、複数の臓器にまたがる反応が続く人もいます。
代表的な症状は、においに極端に敏感になる嗅覚過敏、強い倦怠感、息苦しさの三つです。イタリアの研究でも、この三つが最も多い症状の三徴として報告されています。
これに加えて、頭痛、めまい、集中力の低下、皮膚のかゆみや発疹、動悸、発汗の異常、消化器症状、不眠、不安感など、全身のさまざまな部位に症状が現れることが特徴です。
反応する物質は、香りに限りません。農薬、洗剤、食品添加物、タバコの煙、新築住宅の建材、印刷インクのにおい、ガソリン、防虫剤、薬剤、除菌スプレーなど、幅広い化学物質に対して症状が現れます。
このように症状も反応する物質も幅広いため、化学物質過敏症は診断が難しい病気でもあります。客観的な検査法や統一された診断基準は、国際的にもまだ確立されていません。一方、日本では、1999年に北里大学の石川哲医師らによって独自の診断基準が提示され、専門外来などでの診療に活用されています。
それでも、「複数の物質をきっかけとして、複数の臓器に症状が現れる」という特徴が、化学物質過敏症とほかの病気を区別する際の手がかりになります。
なぜ起こるのか。発症のメカニズム
化学物質過敏症を発症するきっかけとして、シックハウス、農薬散布、工場事故、新築やリフォーム、大量の化学物質への曝露などが挙げられます。
一度こうした引き金を経験すると、刺激に反応する閾値が下がり、その後はごく低い濃度の化学物質にも症状が現れるようになると考えられています。
専門的には、TILT(toxicant-induced loss of tolerance、毒物誘発性耐性喪失)と呼ばれる考え方で、二段階の過程が想定されています。第一段階では、強い曝露によって化学物質に対する「耐性」が失われます。続く第二段階では、日常生活にあるごく普通の香りや化学物質にも反応するようになる、という考え方です。
近年の研究では、皮膚や粘膜、気道に存在するTRPV1・TRPA1という感覚受容体が過敏になっている可能性が注目されています。これらの受容体は、本来、痛みや刺激を感じ取るセンサーです。しかし、いったん敏感になると、多くの人なら気にならない程度の刺激でも、痛みや不快感として感じ取られてしまいます。
加えて、脳のさまざまな領域における働きの変化、全身の炎症、酸化ストレス、自律神経の不安定さなど、複数の仕組みが絡み合っていると考えられています。
心理的な要因が「原因」だと片づけられがちですが、それは一面的な理解です。強いストレスや不安によって症状が悪化することはあっても、それは化学物質過敏症そのものの原因ではなく、あくまで症状を悪化させる要因です。症状を心理的な問題だけで説明することはできません。
化学物質過敏症は、喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、片頭痛、線維筋痛症、慢性疲労症候群など、ほかの慢性疾患と重なって現れることも多く、複数の病気を抱えながら悪循環に陥る方もいらっしゃいます。
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