子どもがイライラして怒りっぽい。何を疑う?診療現場での経験を精神科医飯島先生にお伺いしました

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最近子どもの元気がない、食欲も落ち気味だし、どこかイライラしているし・・・これって最近よく聞く季節性うつ病?うつ病とどう違うものなの?そんな疑問について、不登校/こどもと大人の漢方・心療内科出雲いいじまクリニック院長の飯島慶郎先生からお話を伺いしました。

子どものうつ病と冬季うつ病:秋冬の心の変化を見逃さないために

「最近、なんだか元気がないな」と感じたら
「朝、なかなか起きられなくなった」「好きだったゲームにも興味を示さなくなった」「些細なことでイライラして怒りっぽい」

学童期の子どもの約1~2%、思春期では2~5%がうつ病を経験するという研究報告があります。40人クラスで考えると、正式な診断基準を満たすレベルのうつ病を抱えているのは1~2人程度ですが、診断には至らない軽度の落ち込みや抑うつ気分を感じている子どもを含めると、もう少し多くなる可能性があります。

さらに、日照時間が短くなるこの時期特有の「季節性うつ病(冬季うつ病)」は、大人だけでなく子どもにも起こることが分かってきました。今回は、子どものうつ病、そして見落とされがちな冬季うつ病について、診療現場での経験をもとにお話しします。

子どものうつ病は「見えにくい」のが特徴です

「悲しい」とは言わない子どもたち
大人のうつ病といえば、「気分が沈む」「悲しい」といった感情が思い浮かびますね。ところが、子どものうつ病はまったく違う顔を見せることが多いのです。

診察室で子どもたちに「悲しい?」と聞くと、首をかしげることがよくあります。「大人はこういうとき、悲しいって言うの?」と逆に聞かれることもあるほどです。男の子の場合は「くやしい」と表現することが多く、本当は理解してもらえなくて悲しいのに、その感情を言葉にすることに慣れていないのです。

身体の症状として現れる「仮面うつ病」

「仮面うつ病」とは、気分の落ち込みなどの精神症状が目立たず、頭痛や腹痛などの身体症状が中心となるうつ病です。子どものうつ病の中でも最も見落とされやすいタイプといえます。

「頭が痛い」「お腹が痛い」「気持ち悪い」、こうした訴えで小児科を受診しても、検査では異常が見つかりません。でも、これは決して仮病ではないのです。お子さんは本当に痛みを感じています。ストレスや不安、精神疾患が身体症状として表れる「身体化(somatization)」であり、子どものうつ病では非常によく見られる現象です。
そんな子どもたちに診察室でよく確認するのが「疲れやすさ」です。

「最近、疲れを感じたり、体が重かったり、だるかったりしないかな?」
この問いかけに、多くの子どもが「いつも疲れてるしだるいよ、でもお母さんに言っても『そんなはずないでしょ』って言われるから黙ってるんだ」と答えます。この「易疲労感(疲れやすさ)」は、子どものうつ病でほぼ必ず見られる重要なサインなのです。

思春期は「イライラ」と「怒り」で表れます

9歳以降の思春期になると、うつ病の現れ方がさらに複雑になります。大人のような「悲しみ」ではなく、「イライラ」や「怒りっぽさ」として出現することが多いのです。

親の何気ない一言に激しく反発したり、きょうだいとのけんかが増えたり、物に当たったり。こうした様子を見ていると「反抗期」「性格の問題」と思われがちですが、実は脳の機能が一時的に低下している状態で、本人も「なぜこんなにイライラするのか」と苦しんでいることが多いのです。

学業面では集中力の低下が目立ちます。これまで良好だった成績が急に下がったり、提出物を忘れることが増えたりします。「やる気がない」「怠けている」と見えるかもしれませんが、本人は必死で頑張っているのに、頭が働かない状態なのです。

「頭が曇った感じ、もやもやした感じがしてスッキリしない感じはある?」

このように尋ねると、「そう!まさにそれ!」と多くの子どもが答えます。この「ブレインフォグ(思考抑制)」も、子どものうつ病を見分ける大切なサインです。

秋冬に強まる「季節性うつ病」を知っていますか

日照時間の減少が子どもの心に与える影響

秋が深まり、朝晩の冷え込みが厳しくなるこの季節。実は、日照時間の短さが子どもの心に大きな影響を与えることが分かってきました。

「季節性うつ病(冬季うつ病)」は、秋から冬にかけて症状が現れ、春になると自然に回復するうつ病です。以前は大人だけの問題と考えられていましたが、最近の研究では、9歳から19歳の子どもの約3~5%に見られることが明らかになっています。

複数の研究から、日照時間が短い時期に子どもの精神科相談が増加することが報告されています。例えば、イギリスの研究では、9月から11月にかけて、子どもの抗うつ薬の処方開始やうつ病の発生率が増加するという調査結果が示されています。

「食べて寝て」の症状が特徴的

冬季うつ病の症状は、一般的なうつ病とは少し異なる場合があります。
よく見られる症状
・異常な眠気(朝起きられない、休日は昼まで寝ている)
・食欲が増す(特に甘いものや炭水化物を欲しがる)
・体重が増える
・体が鉛のように重く感じる
・イライラしやすい
・集中力が続かない

通常のうつ病では食欲不振や不眠が見られますが、冬季うつ病では「食べて寝て」が特徴なのです。このため、単なる「怠け」「甘え」と誤解されやすく、見落とされがちです。

なざ秋冬に症状が出るのか

冬季うつ病の主な原因は、日照時間の減少による脳内物質のバランスの乱れです。

セロトニンの減少
日光を浴びる時間が減ると、気分を安定させる神経伝達物質「セロトニン」の活動が低下します。セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、その不足は直接的に気分の落ち込みにつながります。

メラトニンの分泌異常
睡眠を促すホルモン「メラトニン」の分泌リズムが乱れ、朝起きられない、日中も眠いという状態を引き起こします。

ビタミンD不足
日光を浴びることにより体内で作られるビタミンDが不足します。ビタミンDはセロトニンの働きを助ける役割があるため、その不足はうつ症状を悪化させる可能性があります。

高緯度地域、特に北米やスウェーデンなど一部の地域では季節性うつ病の有病率が多いことは以前から知られていましたが、日本でも決して珍しい病気ではないのです。

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