子どものころにハマった本、おすすめの本をこどもとおとなのクリニック「パウルーム」院長、黒木先生に伺いました。

子どものころに読んでいた本、ハマった本、おすすめの本について、今回は読書セラピーにも取り組んでいる、こどもとおとなのクリニック パウルーム院長、黒木 春郎先生にお伺いしました。



こどもの頃に読んだ本

こども時代は、自分ではつい昨日のことのように感じます。
しかし自分の年齢を考えると相当な年月が流れていますので、「今の人にこれを言って通じるものか?」と不安な気持ちも抱きつつ書いています。
幼いころの記憶をたどると、眼科医だった母親の診察室の隅で「絵本を見て待っていなさい」と言われて、言われるがままに母が準備した絵本を開いて長い時間、座っていたものです。
しかしやがて母がやってきて「あら、本の上下が逆だわ」と。
「見ていないさい」と言われたから「見ていた」のですが、母はがっかりしたようです。

文字を覚えるのも遅かったようですが、さすがに小学校に入ると自分で本を読めるようになりました。
家に「岩波の子どもの本」シリーズが揃えてあり、『海のおばけオーリー』『きかんしゃ やえもん』『はなのすきなうし』『ふしぎなたいこ』などを次々に読みました。
自分の日常生活と全く違う世界に触れることが楽しかったのだと思います。
小学校低学年のうちに読んだ、同じシリーズの『どうぶつ会議』(エーリヒ・ケストナー)には強い印象を受けました。
「動物が出てくるけれど、書いてあるのは人間のことなんだな」と思ったことを60年近くたった今でも覚えています。

中学以降、印象に残った本

その後は、身体を使う活動が苦手だったこともあり、たくさんの本に親しみました。鮮烈な印象として残っているのは、中学1年生の時に読んだ北杜夫の『幽霊』です。
私はそこで北杜夫という作家を知り、夢中になり、ついにはその一族を描いた『楡家の人びと』を読破し、父親である斎藤茂吉の短歌にも親しんだものでした。
また、自分自身の中へ深く降りていくような作品を求め、ヘルマン・ヘッセ『デミアン』に魅了されました。作品中で示唆的に用いられているカインとアベルの逸話から、聖書というものへの興味も膨らみました。

大人になっても本は思い出を伝えてくれる

数年前に、生まれ育った実家を片付ける機会があり、両親ともにもういなくなった家の荷物を移動したり処分したりしました。
その時に、母親の書棚に、私や弟、妹が中学生高校生の頃に読んでいた本や漫画がきれいに並べられているのをみつけました。
母がそれらを読んだとは思えませんので、きっと子どもたちが親しんだものを捨てきれず、自室にとっておいてくれたのでしょう。
こどものころの読書を思い出すとは、詰まるところは母親を思い出すことでもあると感じました。

[執筆者]

黒木春郎先生
こどもとおとなのクリニック パウルーム(東京都港区)院長。

18年間に渡り千葉県いすみ市の「外房こどもクリニック」院長として地域の小児医療に貢献したのち、より多くのこどもに良質な医療を届けるべく、2023年4月に青山にて開業。
約10年に及ぶ発達外来の経験を持ち、自身でも公認心理師、臨床発達心理士を取得。
「こどもとおとなのクリニック パウルーム」では「図書室のなかのクリニック」をコンセプトとし、待合室に約3000冊の絵本・児童書を揃え、読書セラピーなどの独自の取り組みも行う。

こどもとおとなのクリニック パウルーム
https://pauroom.jp/

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